鑑定士と顔のない依頼人 観客を欺く伏線9つと皮肉の効いた原題を解説!

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あっと驚く展開でビックリさせてくれた映画「鑑定士と顔のない依頼人」ですが、2回目を観るときの味わい深い伏線もなかなかのもの。せっかくなので僕が気がついた伏線を紹介していきたいと思います。気になる原題「BEST OFFER」の意味についてもしっかり調べてみました。

伏線1.二回目の覗き見は、クレア(偽)にばれていた

正確には、バレていたというより「覗く前提でトラップをしかけていた」というべきでしょうか。

一度目、こっそりクレアを覗き見たヴァージルは彼女の美しい姿に魅了され、そしてうっかりロバートに「実はこっそり覗いたことがある」とバラしてしまいます。

そこでロバート達は一計を案じたのでしょう。どうせまたヴァージルは覗き見をしてしまうに違いない、だったらそれを利用してやろうと。

二回目の覗きの時、かかってきた電話は完全にフェイクです。
ヴァージルが聞いていることを知った上で、「オールドマン氏は素敵な人よ」「信頼できるわ」などと褒めちぎり、「彼が私に恋を?そんなわけないじゃない(笑) 病気に興味があるだけよ」と自分を卑下してみせます。
今思えば、余りにあからさまですね

ヴァージルの立場に立ってみると、この発言は実に効果的です。
クレア(偽)は、ヴァージルが聞いていないと思って本音を話している(フリをしてる)わけですから、ヴァージルにとって目の前で愛の言葉を囁かれるよりずっと真実味があるわけです。

しかも、シンプルに「好きだ」と言わない辺りが巧いですね~。ここでクレア(偽)がヴァージルのことを好きだと言ってしまうと、ヴァージルは安心して余裕が出来てしまうかもしれません。
相手を好ましく思っているけど、私にはそんな資格はないわ…と引いてみせることで、相手に自分を追いかけさせる!いや~、百戦錬磨の恋の駆け引きって感じですねー(笑)

もうひとつ、フェイクであることを裏付ける証拠。
それは椅子と机の位置、それに服装です。

二回目の覗き見の時、クレアは電話をしながらお皿かなにかを割ってしまいました。そして奥の椅子に座って、あぐらを組み、ヴァージルをドキドキさせるわけですが…

1回目の覗き見の時は、こう。

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2回目の覗き見の時は、こうです。

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気づきましたか?

まず奥の椅子の向き。
二回目の覗き見の時にクレアが座る椅子(白と水色のチェック)が、ヴァージルと向かい合うように直されており、よりエロティックなアングルになるよう修正されています。

手前の机と椅子の位置も変わっています。
最初の覗き見の時と同じ位置では、奥の椅子に座ったクレアを覗く時に邪魔になってしまいますね。
ところが!二回目の時には若干左の方に寄せられ、椅子も動かされているため、座ったクレアをばっちり観ることが出来るのです。

もちろん生活してる上で多少の移動はあるでしょうが、撮影時にそこまで考慮してわずかに移動させてるとは考えづらいです。スタッフが意図を持って動かしたと考えた方がいいでしょう。

そして服装。
まるっきり偶然かもしれませんが、一回目の時はズボン履いてたのに、二回目の時はガウンの下は何も履いていません。

最初に観たときはヴァージルってばラッキー!とか思っていましたが、すべては周到に用意された誘惑の罠だったのです…

伏線2.クレアが自分の部屋に招いた理由

クレアに招かれ、ヴァージルは隠し部屋にいれてもらいました。
映画をもう一度観ると気づきますが、これはある意図があってのことなのです。

この直前のシーンを覚えていますか?
ロバートの彼女サラに「彼を信じてはいけない」と言われたヴァージルは、嫉妬に駆られてロバートと絶縁。オートマターも回収してしまいます。

困ったのはロバートたち詐欺集団。
そもそも彼らの戦略はこうです。

  1. オートマターの部品をちらつかせヴァージルの興味を引く(復元できたら莫大な値段がつくことから、実は欲深いヴァージルが興味を持つことは間違いない)
  2. ロバートはオートマターの修復を受け持ちつつ、巧妙にクレアとの話を聞きだし、恋の相談役に収まる
  3. 相談に乗るフリをしながらヴァージルを恋の深みに誘導。クレアはヴァージルの恋人に収まる。
  4. 肖像画コレクションを見せてもらい、隙を見て全部奪う。

そのため、ヴァージルがロバートと絶縁してしまっては作戦が不可能とまではいきませんが、なにかと不都合が生じるのです。

そこで、詐欺集団はヴァージルがロバートとの仲を修復すべく、再度オートマターの部品をちらつかせることにしました。
そう、クレアの部屋に入れたのはそのためなのです。

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なんと、オートマターのパーツを大盤振る舞い!(笑)

今にして思えば、なんとかしてヴァージルを繋ぎ止めようとする詐欺集団の必死さが伝わってきますね。

さらにヴァージルが「でも修復できるかわからないが…」とか告げると、この追撃です。

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うん、なんだか言ってる意味が分からない。
でも、女心ってこういうところありますよね…(溜息)

そんなわけで、ヴァージルは慌ててパーツを抱えて、めでたくロバートのところへ謝罪へ行きましたとさ。

うーん、チョロい。

伏線3.クレア失踪事件の真実

なぜかクレアがいなくなってしまった時のことを覚えていますか?
今思えば、これもヴァージルを心配させるための狂言だったと思えますが、実はこれにも裏があります。

クレア失踪がわかったときのシーンですが、ヴァージルはこんな風に屋敷を訪れています。

「クレア、私だ。ランチを持ってきたよ」

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そう、この時は唯一「アポなし訪問」でした。だからクレア(偽)はスタンバイしていなかったのです!
いくら入念な詐欺と言っても、クレア(偽)を24時間待機させ続けるのは負担が大きかったはず。念のために見張り(おそらくクレアの行った方向を教えてくれた青年)を配置しておく、と言ったとこでしょう。

その後、スタンバイの準備ができてから、ロバートが「他に隠し部屋があるんじゃない?」とヒントを教えたのでしょう。これで見事再会…という演出ですね。

伏線4.『231』

先ほどのクレア失踪のシーンで、カフェの青年がクレアの行方を教えてくれた際に、小さなクレア(本物)が「231」と呟いていました。

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最初に観たときは想像もつきませんでしたが、これ、クレア(偽)が家の外にでた回数ですね。
終盤の詐欺発覚のくだりで、わざわざ「231回と、あと6回」というややこし言い方をしていたのはそのせいです。

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小さなクレア(本物)はよく謎の数字を呟いていましたが、実は意味のない数字は一切呟いていません。店に置いてあるビデオゲーム機に表示される数字(得点?)だったり、誰かの質問に答えていたり、そしてクレアの外に出た回数だったり

よく見ると、クレア失踪シーンの時には、これをヴァージルに伝えるために一生懸命あとを追いかけていました。

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残念ながら、ヴァージルはそれに気づかず、走り去ってしまったのですが…(´・ω・`)

伏線5.カタログ

そう言えば、ようやくクレアの屋敷のカタログが完成した時、クレアはなんと言ったでしょうか。
彼女は「やっぱり売りたくない」と言い出しました。

それはそうですよね。
あの家具は、ビリー達が買ってきたものもあるでしょうが、どこかから借りてきたもの、もともとクレア(本物)の屋敷に備え付けられていたものもあるはずです。競売にかけられてはちょっとまずいわけです。

なお、「カタログが完成したよ」とヴァージルが告げ、「売りたくない」とクレアが言ったとき、ロバートのえらくソワソワした様子が見物です。

初見では、ヴァージルが怒り出すのを心配していたのだと思いました…。

伏線6.ビリーがうっかり見せた唯一のほころび

盗難後、クレア(偽)が「私の母を描いた絵」だというバレリーナの肖像画の裏をみるとこんなサインがありました。

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“ヴァージルへ 親愛と感謝を込めて ビリー

ビリー…!お前だったのかああああ!

いや、実は…最初に映画を観たときは正直「誰…?」となりました。どうも外国人の名前を覚えるのが苦手で…。しかし、もう一度観直して驚愕。
なんとヴァージルの悪事の相棒だったのです。

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冷静に考えてみれば、ヴァージルの肖像画コレクションの存在を知る人は相棒のビリーを置いて他にいません。最初はロバートに絵の存在を教えたことがあったのかなーとか思ってましたが、ビリー黒幕説のほうがずっと自然ですね。

そのビリーの登場は、彼の有終の美を飾るオークションでの会話が最後となります。

そのときの彼の台詞がこうです。

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「会えなくなると寂しいよ」

すぐさまヴァージルは「会えなくなるのか?」と聞き返しています。だっておかしいですよね。引退しただけなんですから、普通に会えるはずなんです。

そう、ビリーはこの時点で肖像画をすべて奪うことに成功しており、あとは彼の前から姿を消すだけだったのです。ついつい、本音が漏れてしまったのですね。

すぐさまビリーは「相棒として一緒に仕事できるのはこれが最後なんだな」と言い直していますが、この瞬間こそが最後まで完璧に騙して通していた詐欺集団、その黒幕が、唯一見せてしまったほころびでした。

伏線7. 発信機

ヴァージルの車に仕掛けられた黒い機械ですが、これはロバートの工房でみたものと一緒ですね。
「おばさんがどこにいても見つけられる」と説明していることから、居場所を特定する発信機のようなものでしょう。

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ボンネットの中に落ちていた発信器。カタログの上にありますが、これはボンネットを開けた弾みに裏側から落っこちてきたため。

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ロバートは店に来た女性に同型の発信器を渡している。

おそらく、足を引きずった管理人に「車に荷物を積んでくれ」と言ったときにとりつけられたのではないでしょうか。ロバートが犯人一味である証拠の一つであり、またヴァージルを発信器で監視していた証拠でもあります。

伏線8.オートマターの蓄音機の台詞

オートマターの蓄音機も、ロバートの工房で見かけたものですね。ロバートの関与を衝撃的に示す証拠になりましたね。スクリーンショット 2017-03-20 21.41.24

なお、この「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」という台詞は何を意味しているのでしょうか?

ひとつは、「偽物の恋愛感情も真実の恋のように見えてしまう」という皮肉でしょうね。

それともう一つ注目したいのは、この台詞が出たのはクレアとの食事中の会話です。(ロバートも石像の陰からこっそり覗いていましたね)
そのときはこんな風に続きました。

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そう、きっとロバート達も、あえて犯行声明を残したくなったのでしょう。

通常、自分たちが犯人である証拠を残すのは、余計なリスクでしかないはず。
そこをあえてメッセージを残していくなんて、これは彼らの勝利宣言に他なりません。

そんな危険を冒しても構わないくらいに、完璧で芸術的な勝利に酔っていました。あるいは「今更この程度の手がかりを残したって、捕まりはしないぜ」という圧倒的な余裕だったのかもしれません。

ロバートはオートマターを置いていき、ビリーは肖像画の裏にサインを残しました。
それでも絶対に捕まらない自信があったのでしょう。

盗んだ肖像画を売りさばく方法ですって?全く問題ありません。
なにしろ本来オークションで落札していたのはビリーですし、「骨董の世界にはルールがある」んですよ

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伏線9.サラは詐欺集団の一味だったのか?

ロバートの彼女は詐欺集団の一味だったのでしょうか?
一緒に食事をしたり、詐欺が発覚した後に姿を消したあたり、詐欺集団の一味にみえなくもないです。「ヴァージルに嫉妬心を煽らせる役目だ」という見方もあります。

ただ、それにしては方法が回りくどく、かつ逆効果になっていました。
彼女の「最近クレアという女性の話ばかりする」「ロバートに気を許してはいけない」なんて台詞のせいで、あやうくロバートが絶縁されてしまうところでした。普通に考えて、嫉妬心を煽るのなら、ロバート以外の男性を恋敵に設定するほうが利口でしょう。
僕は「何も知らなかったただの彼女」という可能性を考えています。

詐欺発覚後に姿を消したのも、ロバートに別れを告げられたからと思えば、それほど不自然ではありません。あれだけ女に軽いロバートのことですから、おそらく最初から詐欺が成功したらサラを捨てるつもりだったのでしょう。

酷い奴ですね。

原題「Best Offer」について

直訳すると「最上の出品物」ですが、この映画の中ではヴァージルがビリーに出す不正落札の符丁にも使われていました。
ヴァージルは、落札してほしい出品物がでると、ビリーに目配せをして「This is “best offer”.」と告げるのです。

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ここまでは映画を観ていればなんとなくわかるのですが…、実はもうひとつ、“best offer”には別の意味があるんです。
それは外国のオークション用語で「売り手が提示した額には足りてないけど、自分が出せる精一杯の額を提示する」ことです。(eBayなどの海外のサービスを利用すると見ることがあります)
ちょっとわかりにくいですが、つまり高すぎて買えない商品に、「自分はこれだけまで出せるんですが…」と交渉するんですね。Yahooオークションの「値下げ交渉」をイメージしてみると実感しやすいかもしれません。

これらを考えると、『BEST OFFER』という本来のタイトルにはこんな意味が隠されていたのです。

  • 「最上の出品物」という言葉通りの意味(ヴァージルがクレアに感じていた魅力)
  • 劇中でのみ通じる「犯罪の符丁」という意味
  • 「高くて買えない」から転じて「自分には手に入らない高嶺の花」の象徴
  • 「自分が出せる精一杯の金額を払う」から「生涯をかけた肖像画コレクションを奪われる」を連想
  • そして、そうまでしても手に入らなかった真実の愛、それこそがヴァージルにとっての「高嶺の花」だったという痛烈な皮肉

このように、いくつもの意味を持った味わい深いタイトルでしたが、残念ながら邦題ではずいぶんシンプルになってしまいました…。
もっとも、オークション用語の説明を入れないとなかなか伝わらないですし、仕方ないですよね(´・ω・`)

感想

こうやって伏線を並べてみると、詐欺集団の計画は決して細部まで計算された綿密なものではありません。むしろ臨機応変にトラブルに対応していく様子は、さながら実際の詐欺集団のようでしたね。

不思議なことに映画の監督はこの作品を「ハッピーエンドだ」と明言しているそうです。

果たしてこの物語は、本当にハッピーエンドなのでしょうか?
正直、僕にはとてもそうは思えません。もちろん物語の冒頭におけるヴァージルも、幸せだとは言えません。さびしげな誕生日のシーンが印象的でしたよね。(実際には誕生日の前日、だったわけですが)

よくありますよね、本当の幸せはなにかを気づかせるために、巨万の富を築いた人間が抱える孤独感を描いた映画って。
「最高の人生のみつけ方」や「天使のくれた時間」、「ぼくの、たいせつなともだち」なんかがそうです。
これらの物語では「自分は孤独だ」「幸せとは富でなかった、愛情なのだ」「自分は幸せではないのだ…」と知ることこそが、幸せをつかむ第一歩として描かれています。
この物語でもたしかに主人公は人を愛する喜びを知りました。クレアに愛される幸せだけでなく、彼女を幸せにすることに無上の喜びを感じる様子が描かれていました。(人生における最高の幸せは「愛する人を幸せにすること」ですからね)

彼は今まで他人を忌避して、いつも手袋をつけ、食器すらも自分専用の物しか使えませんでした。それがいつの間にか、手袋を外し、普通にレストランで食事をし、他人とハグすらするようになっていました。
他人への愛を知ったおかげで、彼の「対人恐怖症」ともいえる症状は治療されたといえるでしょう。

でも、この物語は彼が「孤独を知る」ところで終わってしまいました。そこから幸せをつかむ様子や、希望は描かれていないのです。これで「ハッピーエンド」とはあまりに無責任、上から目線ではないでしょうか。

一応、僕の中で一つ仮説はあるんです。。

手袋をせず、不思議な内装のレストラン「ナイト&デイ」で待っているシーンで、映画は終わっています。もしもこれが時系列の一番最後であり、この後にも物語が続いていくのだとしたら、そこには希望があったかもしれません。

クレアは戻ってこないでしょうが、人を愛することを知ったヴァージルは、今までとは違った人生を送れるはずです。もしかしたら、新しい出会いも、恋だってできるかもしれません。

でも、映画としてはあのシーンがラストに位置していましたが、時系列では「介護施設で車いすに座っている姿」がおそらくラストに位置してしまうと思うんです。
ああ、せめてこの車いすのシーンさえなければ、ヴァージルに希望を抱けたのに…。

たしかに彼は悪人でした。
長年鑑定やオークションで不正を働き、私腹を肥やし、他人(特にビリー)に対し不遜な態度をとっていました。勧善懲悪、自業自得なのかもしれません。
でもやっぱり、この映画の観客の一人からすれば、彼には「救い」を残してほしかったなと、寂しく思うのです。

それとも、たとえ偽りであれ愛する女性との思い出ができたこと、そしてそれを噛みしめながら余生を暮らせることを、ハッピーエンドだとでも言うつもりなんでしょうか。
そんなわけないと、思うんだけどなぁ…。

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