『タクシードライバー』が名作と評価される理由を解説/結末の意味とは

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映画『タクシードライバー』は映画史に残る名作と評価されていますが、その魅力は少し分かりづらい部分もあります。僕も10代の頃に鑑賞した時は、「インパクトすごいけど、なんでこんなストーリーなのだろう…」と理解しきれていませんでした(苦笑)

それでも、当時の社会の雰囲気を知り、主人公の心情を理解できるようになった現在、ようやくその魅力を説明できるようになりました。

目次

1.アカデミー賞ではなく、カンヌ国際映画祭を受賞した理由
2.時代背景 ~ベトナム戦争とアメリカンニューシネマ~
3.孤独感を抱く若者
4.まとめ エンディングの意味は?
5.アメリカン・ニューシネマの終焉

1.アカデミー賞ではなく、カンヌ国際映画祭を受賞した理由

今でこそ、不朽の名作とされている映画ですが、実はアカデミー賞の最高賞である作品賞は、ノミネートしたものの受賞は出来ませんでした。(ノミネートだけでも素晴らしいことですけどね)

その代わり、フランスのカンヌ国際映画祭では、最高賞である「バルムドール」を受賞しています。

実はアカデミー賞とカンヌ国際映画祭では受賞する作品の雰囲気に違いがあります。

アカデミー賞が「みんなが楽しめるエンターテイメント」を重視する一方、カンヌ国際映画祭では「映画として完成度」「文芸的」など一般受けしにくい作風が重視されます。
いわば、「カンヌは映画の純文学」と言えます。

(詳しくはこの記事↓で解説しています)

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その点、この『タクシードライバー』は、まさに「一般受けしにくい」「純文学的」作品です。

まず、この作品がハッピーエンドを意識した娯楽作品ではなく、「何かを考えさせる」純文学的な映画であると意識すれば、その魅力も理解しやすいです。

2.時代背景 ~ベトナム戦争とアメリカンニューシネマ~

次にこの映画が公開された1976年当時の時代背景に迫ってみましょう。

当時アメリカはベトナム戦争から撤退した直後でした。

最初は「共産主義にたいする正義の戦争」と信じられていたのかもしれません。
しかしこの戦争は初めてテレビの報道が帯同した戦争でもありました。
テレビを通して戦争の実態がお茶の間に届けられることで、戦争の悲惨さ、双方の犠牲が国民に知られていきます。

なぜ私たちはこんな悲惨な殺し合いを眺めているのか?遠いインドシナ半島で、何のためにアメリカ兵が戦わなければいけないのか?
「正義」の感じられない戦争に、国民の中に厭戦感情、が漂い始めました。

そして国民の間には、政府への不信正義への疑問、世界を変えられない無力感が漂い始めます。

そんな時代の雰囲気を反映し、映画界では“アメリカンニューシネマ”と呼ばれる映画群が大きなブームとなりました。

“アメリカンニューシネマ”の特徴は、以下のようなものです。

「社会の不条理を描き出す」
「重く深いテーマ性」
「説明的すぎない(=難解)」
「アンチハッピーエンド」
「アンチヒーロー」

従来の、観客に夢と希望を与える映画とはまるで逆ですね。
代表的な作品には『俺たちに明日はない』『イージー・ライダー』『ダーティーハリー』等があります。

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この『タクシードライバー』も、まさにこの“アメリカンニューシネマ”の代表作と言われています。

この映画がハッピーエンドなのか、主人公がヒーローなのかは意見が別れるところでしょうし、作品が難解なのは言うまでもありません(笑)

また、主人公トラヴィスが、始終、社会の腐敗を不満に思うセリフを吐いていたのも印象的でした。

夜の街は娼婦、ごろつき、ゲイ、麻薬売人で溢れている
吐き気がする
奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ?

街に出ると頭が痛くなる
いつまでも痛むんです

これ以上我慢できん
あらゆる悪徳と不正に立ち向かう男がいる
絶対に許さん

これらのセリフは主人公自身の不満というだけでなく、当時の人々が胸に抱いていた社会への不満の代弁でもあったのです。

ベトナム戦争帰還兵問題

もうひとつ、当時のアメリカでは「ベトナム帰還兵問題」が注目されつつありました。
ベトナム戦争から帰還したアメリカ兵ですが、戦争が終わり、軍隊を辞めたあとの生活に困難が待っていたのです。

戦争での負傷はもちろん、一見怪我が無くても、悲惨な戦闘の日々がトラウマとなりPTSDなどの精神障害を発症することもありました。そういった帰還兵は就職や社会生活に大きな不利益を被ります。
特にベトナム戦争では、アメリカ史上初めて政治的勝利を得られなかった戦争であり、その徒労感は深刻でした。

そうでなくても、帰還兵達は数年間を軍隊で過ごしていた人間です。今まで社会人としてキャリアを積んできた人間と比べたら、就職上のスキルではどうしても見劣りしてしまいます。
生活のためには、安い賃金で雇ってもらうしかありませんでした。

トラヴィスも、26歳の成人男性にも関わらず、社会的には職歴無しの無職でしたね。

彼が直接ベトナム戦争に参加したと述べているシーンはありませんが、「’73年5月に名誉除隊した」という経歴からベトナム帰還兵だと推察されます。(アメリカ軍がベトナムから撤退した翌月だからです)

また、彼は元・海兵隊と述べています。海兵隊は厳しい選抜試験をクリアしないと入隊できないことから、アメリカ軍の中でも一際難易度の高い隊とされています。
そんな優秀な兵隊でも、社会に戻ればこんな扱いなのです。

※彼の従軍歴はあくまで「自称」であることから、彼の経歴詐称だという説もあります。

もちろん政府も、帰還兵に対して金銭的な手当や補助金を用意していましたが、決して十分なものとは言えませんでした。
多くの帰還兵は、国のために命をかけて戦ったにも関わらず、出征前の生活水準に逆戻りするか、あるいはそれ以下に転落していたのです。

戦場から生きて帰ったときこそ、国も市民も、戦地での苦労をねぎらい、国家に対する貢献を讃えました。

ただし、その歓迎ムードはごく一時的なもので、多くの帰還兵の労苦はすぐに忘れられ、時に偏屈な厄介者として扱われていたのです。

そんな扱いを受けたベトナム帰還兵は、そしてトラヴィスは、いったいどんな心境だったでしょう。

「国のために命を危険にさらした見返りがこれか?」

「俺や戦友が命をかけて守りたかったものは、こんな腐りきった社会だったのか?」

参考:映画『ランボー』

ベトナム帰還兵が社会から疎まれ、戦争時に受けた拷問のフラッシュバックのせいでうっかり警察を敵に回してしまい、保安官やら警察やら州の軍隊を相手取って一人で銃撃戦やゲリラ戦を繰り広げることになるお話。
もし実際に起こっていたら普通に凶悪事件

英雄扱いされたトラヴィス

映画では襲撃事件の後、主人公トラヴィスは『少女を救ったヒーロー』として英雄扱いされます。

ところが、主人公が最初に襲撃をしようとしていたのは、演説中の大統領候補でした。
サングラスのSPに怪しまれたため慌てて中止していましたが、もしも気づかれなかったら、そこで事件を起こしていたことでしょう。
それこそ、(ある程度の理由すらあれば)襲撃するのなら誰でも良かったのかもしれません。

観客はそれを知っているからこそ、彼をヒーロー扱いする新聞記事を皮肉げな目で見てしまいます。
本当の彼は「狂気に駆られた凶悪殺人犯」であって、決してヒーローではなかったはずです。

ところが、新聞(メディア)は表面だけを捉え、彼こそが正義だともてはやす…。

いったい、正義とはなんなんでしょうか?

メディアが伝えることは真実なのでしょうか?

こんな皮肉もまた、ベトナム戦争を経験した当時の世相を反映しているのではないでしょうか。

3.孤独感を抱く若者

この映画のもう一つの大きな核は、「孤独感」です。

映画の中で、主人公はことあるごとに孤独を訴えています。

自分の殻だけにこもり、一生を過ごすのはバカげている

どこにいても俺にはさびしさがつきまとう

バーや車 歩道や店の中でもだ

逃げ場はない 俺は孤独だ

彼は決して、孤独を共にする孤高の人間ではありません。
彼なりに勇気を出して、女性に何度も声を掛けています。
しかし、そのやり方・距離の取り方がどうにも不器用なのです。
そう、彼は見た目がイケメンだから気づきにくいものの、実はコミュ障の非リア充なんですね。

彼のしでかした失敗を見てみましょう。

1.ポルノ映画館の受付のお姉さんにしつこく声を掛ける。

2.ベッツィーとのデートでポルノ映画館に連れて行く

3.ベッツィーに謝罪する電話で「君は働き虫につかれて気が立っているんだ」と言い訳。

4.路上で少女を車で轢きそうになり、気になったからずっと徐行で後をつける

…まぁ、彼なりに好意を持っていたのはわかるのですが、そういう事したら相手が嫌がると思わないのでしょうか…。
他はともかく、2はいくら非・リア充でも気づきそうなものです。
おそらく彼は生まれつき共感やコミュニケーションが苦手な気質なのでしょう。(おそらくアスペルガーか何か)

そう考えると、彼が発した「やはり彼女も冷たくてよそよそしい人間だった」という独白が胸に来ます。
「彼女は」ではなく「彼女“も”」って言ってるんですよ…。

きっと、昔からずっと、コミュニケーションの下手さから、誰かに好意をもっても邪険に扱われてきたんだと思います。
いったいどれほどの孤独だったことでしょう。

脚本家の実体験

実はこの映画は、脚本家のポール・シュレイダーの孤独の実体験が色濃く反映されています。

二十代後半だった彼は、結婚の失敗、失業などを矢継ぎ早に経験し、精神的にも経済的にも追い詰められます。
お金も家も友人もなく、彼はポルノと飲酒に明け暮れる、絶望的で孤独な生活を何ヶ月も続けていました。

ある日とうとう健康を害し、吐血した彼は病院に救急搬送されてしまいます。
退院後、彼はこの時の強烈な孤独体験を一気に脚本として書き上げました。
もがき苦しみ、世間を恨み、それゆえますます周りを遠ざけ、いつか“暴発”してしまいそうな孤独のつらさ。
それがこの『タクシードライバー』です。

ポール・シュレイダーほど過酷な体験をしていたり、主人公トラヴィスほど共感力不足でないにせよ、多くの若者(あるいはかつて若者だった大人)は孤独の苦しみを知っています
心を開ける友達がいない、好きな女性に話しかけても嫌がられる、クラスや職場の中で孤立している…。

決して全ての人間に当てはまるわけではありません。それでも、理解できる人は確実にいるのです。
彼らにとって、この映画は胸に突き刺さる鋭さと、共感できる悲しみに溢れているのでしょう。

4.まとめ エンディングの意味とは?

上記をまとめます。この映画の魅力は大きくふたつ。

ひとつは、あの時代の人々が感じていた社会に対する反感。

もうひとつは、いつか暴発しかねない、孤独という病のつらさです。

この映画は低予算作品で、スコセッシ監督は金になるとは思っていなかったそうです。
実際、カンヌ映画祭で上映した際は、観客の半分がブーイングをしたそうです。

ところが、クライマックス・シーンでは一部の熱狂した観客が喝采を叫びました。
鬱屈した若者の怒りをぶちまけるカタストロフが、熱狂的な支持を得たのでしょう。

しかし僕個人は、あの銃撃戦を終えて、少し穏やかになったトラヴィスのほうが気になります。
仕事仲間と談笑し、ベッツィーにも落ち着いた距離感で会話をする彼は、もう孤独に苛まれている気配はありません。

おそらく、あの事件が(動機はともかく)結果として評価され、世間や仲間から承認されたことで、彼は孤独から解放されたのではないでしょうか。

映画の中で主人公は、ベッツィーに向けてこんなセリフを言います。

君はひとりぼっちだ

ここを通る度に見てると 君の周りに人は大勢いて
電話や書類でいっぱいだが 何の意味もない

ここへ来て 君に会い
その目や動作を見ても 君は幸せな人じゃない

君には何かが必要だ

多分それは友達だよ

これは果たして誰のことだったのでしょうか?
彼が“君との間には強く感じる何かがあった”とは、本当にただの口説き文句だったのでしょうか?

彼に必要なのは、誰かに認められる、ただそれだけだったのかもしれません。

5.アメリカン・ニューシネマの終焉

この映画はアメリカン・ニューシネマ・ブームの最後期にあたる作品です。
逆に言えば、この作品以降、ブームは終息していったのです。
いったいなにがあったのでしょう。

実は、さきほど説明した、この映画がアカデミー作品賞を受賞できなかったことにヒントがあります。

この不朽の名作を押しのけ、作品賞を受賞したのはいったいどんな作品でしょう。

なんとこの年の受賞作は、あの『ロッキー』だったのです。

これはさすがに、受賞できなくても仕方ないというか、相手が悪すぎます。

ベトナム戦争を機に台頭したアメリカン・ニューシネマは、ハッピーエンドを否定する作品や、英雄を描かない作品を量産しました。
しかし『ロッキー』の出現と大ヒットは、「個人の可能性」「アメリカン・ドリーム」への憧憬を再燃させ、なにより「やっぱり映画はこうでなくっちゃ!」とハッピーエンドの素晴らしさが再評価されました。

さらに翌年には追い打ちのように、あのエンターテイメント映画の王様『スターウォーズ』が公開され、大ヒットを記録します。

物価上昇を考慮した場合、スターウォーズは現在でもなお歴代二位の興行収入にランクインしているそうです。

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社会への風刺という一定の役割を果たしながら、再びハッピーエンド&エンターテイメントにとってかわられ、こうして、アメリカンニューシネマブームは幕を閉じたのです。

しかし、今でもなお、『タクシードライバー』を始めとしたの映画たちは人々の心を引きつけてやみません。
社会の病理が、孤独という病が在り続ける限り、暗く鋭い輝きを放ち続けるのです。

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