ボニーとクライドが人気の理由を解説・『俺たちに明日はない』ネタバレ感想

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「俺たちに明日はない」は映画の名作の一つとしてよく名前が挙げられています。

しかし、名作と断言するには少々クセの強い映画でもあります。
人それぞれ好みはあるでしょうが、ハッピーエンドとは言えない結末や、共感できない主人公像など、わかりやすい「名作」とは一線をかくすものがありました。

なぜ、この映画は名作と評価されているのか?
実は、当時のアメリカの背景を知っておくと、そのヒントが浮かび上がってくるんです。

事件当時のアメリカは「不信の時代」だった

ご存じのように、「ボニーとクライド」は実在する銀行強盗です。1930年代にいくつもの強盗事件を起こし、何人もの命を奪った犯罪者でありながら、世論の中では英雄視すらされていました。

いったいなぜ、彼らは民衆に支持されていたのでしょうか?

空前の大不況

当時のアメリカは空前の大不況に喘いでいました。1929年、ニューヨークの株式市場の暴落に端を発した世界恐慌が起こったのです。

その規模は恐ろしいほどです。
GDPは45%減、株価は80%下落、失業率はなんと25%にも達しました。

日本で過去一番失業率が高かったのは、ITバブル崩壊とリストラブームの影響を受けた2002年です。その時ですら失業率は5.36%です。
国も時代も違うので単純な比較は出来ませんが、25%の失業率がいかにとんでもないものか実感できるかと思います。

お金がなければ心もすさみます。就職できない不安や怒りはどこへ向ければいいのか。
当時人々は、先行きの見えない絶望感に包まれており、社会への不信感や恨みで溢れていました。

禁酒法とギャングの躍進

また、当時は「禁酒法」なる歴史的な悪法に支配されていた時代でした。

もともとは「泥酔、悪酔い」を悪とするキリスト教的価値観から、第一次世界大戦の勝利に浮かれた享楽的なムードを戒めるために実施されました。しかし、1920年から1933年まで施行されていましたこの法律の結果は、最悪でした。

アルコールの販売が規制されたものの、街には大量のモグリの酒場と密造酒で溢れました。酒類の消費量は、なんと禁酒法前より増えてしまったほどだそうです…。

また、禁酒法は違法勢力にチャンスを与えました。密造酒の製造・販売を牛耳っていたギャングが莫大な利益を手にしたのです。

かの有名なギャング、アル・カポネ一家は年間6200万ドル(現在の貨幣価値に換算すると8億3千万ドル)ほどの収入を得ていたそうです。
彼はその資金を使って警察官、議会を買収。彼は実質的に市長よりも権限を持っていたそうです。

また、アル・カポネはイメージ戦略も大事にしていました。
貧しい人たちには毎日無料で食事を配り、恵まれない子供たちをポケットマネーで学校に通わせたりしました。街の子供たちと一緒にアイスクリームを買いに行ったりもしたそうで、街の人々の評判は上々でした。(もっとも、無料で配った食事は、街の食材店を脅してタダで出させていたそうですが…)

彼に批判する新聞記事を書いていた記者も買収しようとしますが、これは断られてしまいます。そこで彼は、なんと新聞社の権利を買い取り、オーナーになってしまったのです。例の記者は当然クビ。すごい荒技…。

資金力と、権力と、暴力を兼ね備えたギャングには、当時のメディアも下手なことは言えなかったことでしょう。お先棒担ぎの記事、ヨイショ記事だって書いたかもしれません。
そんなこんなで、禁酒法時代には市民に次のような感情が芽生えていたのです。

・アルコールを禁止する社会に対する怒り

・官憲はギャングからは賄賂を受け取り、市民には厳しく当たる腐敗した存在だ。

・むしろギャングは庶民に施しをしてくれるし、密造酒だってこっそり売ってくれる。いい奴だ。

颯爽と現れた反社会的存在

世界恐慌と禁酒法の影響で、市民の間には社会に対する絶望感・不信感が渦巻いていました。

そんな中、次々と銀行強盗を起こしながら、警察たちをあざ笑うかのように追跡を交わし続ける強盗団「ボニーとクライド」が現れたのです。
しかも、その手法は「加速に優れた最新式の車で、あっという間に州を越えてしまう」というスタイリッシュさ。
さらにメンバーはなんだかおしゃれな若いカップルです。

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狙っているのが富裕層の象徴である「銀行」であることが庶民の心をくすぐったかもしれません(実際には雑貨店なども襲っていますが)。
強盗殺人を繰り返す犯罪者であったにも関わらず、彼らを擁護する声は多く、匿ってあげる人間も大勢いたそうです。

彼らが英雄視された理由の一つとして、やはりボニーの存在は大きいでしょう。

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当時は強盗が非常に多い時代でしたが、それでもやっぱり若い女性は珍しかったようです。
クライドがリーダーであったにも関わらず、「クライドとボニー」ではなく「ボニーとクライド」と呼ばれていたことも、社会のボニーへの関心が伺われます。

映画化

ボニーとクライドを描いた様々な作品。

「ボニーとクライド」は、死後もなお人気を博していました。むしろ「最後は二人一緒に何十発もの銃弾をたたき込まれた」というドラマチックな結末が、彼らの伝説に拍車をかけたとも言えます。
彼らは、映画をはじめとした様々なメディアで題材となりました。

1937年には、彼ら二人をモデルにしたと思われる映画『暗黒街の弾痕』(原題“You Only Live Once”)が公開。
主演は「12人の怒れる男」「荒野の決闘」のヘンリー・フォンダ。

1950年にはやはり彼ら二人をモデルにした映画『拳銃魔』(原題『Gun Crazy』)が公開。カルト的な人気を誇るフィルム・ノワールです。

フィルム・ノワール。直訳すると黒い映画。虚無的、退廃的な犯罪映画のこと。

1958年には、ボニーを主役にしたアクション映画『鉛の弾丸(たま)をぶちかませ』(原題『The Bonnie Parker Story』)が公開。
クエンティン・タランティーノ監督が絶賛している作品らしいので、なんか、内容は想像がつきます(笑)

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他の映画もたくさんあるんですね!

そして1967年にようやく公開されたのが、有名な『俺たちに明日はない』(原題『Bonnie and Clyde』)です。

そう、実はこの映画、事件から30年以上たってから公開された映画だったんですね。僕はなんとなく事件当時=公開当時だと思ってました(^^;
30年以上というと、もはや別の時代といってもいいですね。日本の「3億円事件」と映画「初恋」ぐらいの開きがあります。

公開当時のアメリカは「挫折の時代」だった

さて、30年という時を隔てて、なぜ再びボニーとクライドが脚光を浴びたのでしょうか?

刺激的な映像

この映画が爆発的な人気を得たのは「刺激的な映像」が大きく影響しているといわれています。
現代の映画を見慣れているとわからないかもしれませんが、当時はあまりに暴力的で、性的描写の際どい問題作とされていたのです。

たとえば、この映画は「銃で撃たれる様子」をリアルに描いてみせました。実はこれだけでも、当時にしては革命的で、常識はずれな暴力描写だったんです。

それまでは銃を撃つカットの次に、倒れて血を流している人を映すことで「銃で撃たれたこと」を表現していました。しかしこの映画では頭部を銃で撃たれて、吹き飛び、血を流す警官などをリアルに描いています。

そして極めつけはラストシーン。主人公が銃弾で蜂の巣になる生々しい描写は、人々の度肝を抜きました。その後、あのシーンは「死のバレエ」と呼ばれ、後に様々な映画に取り入れられていきます。

また直接の描写こそないものの、過激な性的描写でも話題を呼びました。
オーラルセックスを彷彿とさせる描写や、あけすけに性的に不能であることを語るシーンなど、当時の映画にはありえない「際どい」ものでした。

少しでも集中を乱すものを排除しようと、カーテンを閉めベッドの上を片づけるクライド。ベッドで腰の位置を調節するボニー。行為そのものは映さないものの、リアリティ溢れる描写は当時議論の的になった。

いつの時代も「際どい」ものは大衆に…特に若者に受けます。この映画が若者を中心に大ブームになった理由も頷けます。

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当時のTIME誌。この映画の大ブームをとりあげ「The new cinema: Violence, Sex, Art…!」と紹介している。

公開当時の世相

しかし、この映画がアメリカ国民の心をつかんだのは刺激の強さだけでありません。
そこには、1967年公開当時の世相が大きく関係しているのです。

1950年代、アメリカには「赤狩り」の嵐が吹き荒れていました。
当時、世界ではソ連・共産主義国が急速に台頭していました。その恐怖心から、アメリカ全土で共産主義者へのヒステリックな弾圧が行われたのです。

それは、まるで理性的とは思えない現代の「魔女狩り」でした。証拠があろうと無かろうと、名前を挙げられた人間は社会的に抹殺されるか、他の人間の名前を挙げるしかありませんでした。
詳しい説明は下の記事に譲ります。

映画界の黒歴史「ハリウッド・ブラックリスト」について調べてみた
『マジェスティック』という映画があります。 主人公はハリウッドで活躍する映画脚本家です。しかしある時、彼は「共産主義者である」と疑...

「赤狩り」から正気に返ったアメリカ国民たちは、いかに自分たちが非道な行いをしていたかに気づき、愕然としました。
ここは「自由の国・アメリカ」ではなかったのか?
我々は冷静で理性的な存在ではなかったのか?
…国中が自己嫌悪に陥っていたようなものでしょう。

また、当時はベトナム戦争のまっただ中でした。
最初は「共産主義にたいする正義の戦争」と信じられていたのかもしれません。しかし次第にメディアを通じて戦争の悲惨さ、双方の犠牲が国民に知られていきます。

次第に長期化する泥沼。「正義」の感じられないこの戦争に、国民の中に厭戦感情が漂い始めました。政府への不信、正義への疑問がおおっぴらに語られ始めたのです。

「赤狩り」「ベトナム戦争」、ふたつの事件がアメリカ国民の自信を奪いました。
国民が強く持っていたアメリカという国に対する誇りが、がらがらと崩れていったのです。

そんな時代の空気の中、「俺たちに明日はない」は若者たちの共感を集めます。
彼らは体制に反旗を翻すボニーとクライドに共感をよせました。
刹那的な衝動に身を任せたくなる気持ちに理解を示し、
自分たちを苛む将来への絶望感、無力感を投影しました。

彼らは、どこか心の奥底で、「非日常的ななにか」「圧倒的ななにか」が自分を連れ去っていってほしいと、思っていたのではないでしょうか。

時代の雰囲気を反映したのか、この映画がきっかけとなったのか。その後映画界ではアメリカンニューシネマが大きなブームとなりました。

アメリカンニューシネマ
1960年代から1970年代に大ブームとなった「社会の不条理を描き出す」「重く深いテーマ性」「説明的すぎない(=難解)」「アンチハッピーエンド」「アンチヒーロー」を特徴とした映画のこと。

邦題のすばらしさ

もうひとつ、名訳とも言える邦題に触れたいと思います。

この映画の原題は『Bonnie and Clyde』。とてもシンプルなタイトルでした。
アメリカでは「ボニーとクライド」と言えば大変なネームバリューを持っていたのでこれで十分だったのですが、日本ではそれほどでもありません。(なにしろ他国の30年以上前の銀行強盗ですもんね…。)
日本で『ボニーとクライド』とタイトルをつけても「…誰?」ってなる人がほとんどでしょう。

下手をすれば「若い二人の恋愛映画かなっ?(≧▽≦*)」とか勘違いされてしまいます。それは困る。
彼ら二人が銀行強盗であること、劇的な最期を遂げたこと、そういった「前提条件」をうまく伝えるためにも、この映画の魅力を一発で伝えるためにも、タイトルの変更は必須でした。

そう言う意味で『俺たちに明日はない』は非常に良いタイトルでした。

彼らが危機的状態にあること伝えていますし、『俺たち』という単語だけで二人が特別な関係にあることを示唆しています。
二人の抱える将来への絶望感、焦燥感をよく伝えていながら、主人公の無頼・孤独な印象を強めています。
なによりインパクトが絶大です。気取ってるくせに、かっこいい。

そして、僕が一番心にきたのが、この邦題が浮き彫りにした、ボニーとクライドの間の若干の心情のズレです。

映画を観ると気づかされるのですが、「俺たちに明日はない」とはクライドの心情であり、ボニーのそれとは微妙に異なると思うんです。

大人しく暮らそうと身を潜めても、三日目には唸る警官の機関銃

ボニーは詩の中で、自分たちのことをこう表現しています。

もしも急に何か奇跡が起きて、明日ここを出るとき今までを水に流せていたら…?

これは、最後の夜、ベッドの中でクライドに対し呟いた言葉。
それに対し彼は、冗談なのか「初めての州にいって、“仕事”は別の場所でする」と答えてしまいます。女心、わかっていないなあ…。

あくまで刹那的な犯行に身を委ね、どうなってもいいとばかりのクライドでしたが、ボニーはどうでしょう。
彼女はどこか自分たちの未来を夢見ているところがありました。もちろん、それが叶わないであろうと理解しながらですが…。

クライドは「俺たちに明日はない」と吐き捨て、諦めきっていましたが、ボニーは最期まで「私たちにも明日があればいいのに」と悲しく憧れていたんです。

言うまでもなく彼女たちはどうしようもない犯罪者です。哀れなラストも当然の報いでしょう。
でも、このどうしようもない切なさがあるせいで、彼女を憎めない。このわずかな心の引っかかりが、この映画を名作たらしめているんじゃないでしょうか。

****

ラストシーンで警官たちに囲まれ銃を向けられた一瞬、ボニーはクライドの方を振り返り、ほんのわずかに微笑んだような気がするんです。

あれは、諦めだったのか、解放だったのか。
僕には、全ての終わりを悟って、それでも彼に微笑みたかった満足の笑みのように思えるんです。

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