この映画は基本的に現実の「シャロン・テート殺害事件」を下敷きにしていますが、史実をリアルに描写した部分と大胆に脚色した部分が混在しています。
映画と史実にまつわるトリビアを交えながら、解説していきたいと思います。
目次
- 『テスの初版本』が持つ重要な意味
- シャロン・テートの本当の姿
- ブルース・リーとシャロン・テートの関係
- マンソンファミリーのテックスはどんな奴だったのか
- 二人のモデル
『テスの初版本』が持つ重要な意味
映画の中で、シャロン・テートが本屋で小説“テス”の初版本を買うシーンがありましたね。
実はあのシーンには、史実に基づく深い意味が隠されています。
ハリウッドで本を買っているシーン自体は、厳密に言えば創作です。
なぜなら現実のシャロン・テートは、ロンドン滞在中にあの本を買ったからです。
彼女が自分だけ一足先にアメリカに帰る直前に、夫にプレゼントしたのです。
そしてそれが、ポランスキー監督がみた最愛の妻の最後の姿になってしまいました。
彼は脚本執筆のために引き続きロンドンに滞在しました。一足先に自宅に帰ったシャロンは、マンソンファミリーの凶行で、無惨に命を奪われてしまったのです。
後にポランスキー監督はこの小説「テス」を映画化します。
儚げで魅惑的な女性の人生を描いた、美しくも切ない映画です。
映画の冒頭には“To Sharon”の一言が静かに刻まれていました。
シャロン・テートの本当の姿
隣に住む美女シャロン・テートは実在の人物です。しかも、かなり細かい点まで史実に即して作り込んでおり、興味深いです。
コメディ志向
たとえば映画館では、自分が登場するシーンのコミカルな部分が、どれくらい観客にウケているかを気にしており、笑い声に喜んでいましたね。
これは生前の彼女がコメディ女優志向だったことに由来します。
彼女はインタビューで「もし私がシェイクスピアを演じたとしても、観たいとは思わないわ」「コメディで自分の役割を見つけたい」と答えていました。
自分が決して演技派でないと自覚していたのでしょうか。
なにしろ夫であるポランスキーが監督した『吸血鬼』では、1つのシーンのために70テイクもやり直しをさせられていたくらいです(笑)
また、目標とする女優に『スクリューボールコメディの女王』と呼ばれた名女優キャロル・ロンバードを挙げていました。
ファッションとナイトクラブ
彼女はおしゃれな服装を夫に見せびらかしたり、いつも鮮やかでオシャレな服で音楽にノってましたね。これも彼女が生前ファッションとナイトクラブが大好きだったことに由来します。
ファッションも生き方もヒッピームーブメントに大きく影響を受けていました。自宅に友人を招くのが大好きで、開放的でした。
またポランスキー氏もそんな彼女を深く愛していました。彼女に「主婦でなくヒッピーと結婚したい」とまで告げたほどでした。
さすが天才監督。感性がひと味違います(笑)
足の裏
細かい点ですが足の裏にも注目です(笑)
彼女が映画館で自分の出演映画を鑑賞するとき、前の座席に裸足を投げ出して座っていましたが、その足の裏がかなり汚れていましたよね。
あれはシャロン・テート本人がどんな場所でも靴を履かない主義だったことに由来するのです。
※よく見れば、映画のあらゆるシーンで彼女は裸足で過ごしています。
なお「裸足主義」は彼女の特別な思想ではなく、当時のヒッピームーブメントの影響の一つです。当時はたくさんの人間が裸足で過ごしていました。(若き日のスティーブン・ジョブスも裸足主義でした!)
なお、このとき上映されていた「レッキング・クルー」は当時の映像をそのまま使っています。短時間ではありますが生前のシャロン・テートを観ることができます。
ブルース・リーとシャロン・テートの関係
映画の中に、ブルース・リーをモデルにしたと思われるカンフースターがいましたね。
実はあれも史実を元にしています。(ちょっと痛々しいキャラクターなのは創作だと思いますが笑)
彼がシャロン・テートに組み手の稽古をつけていたシーンがありましたよね。
現実でも、シャロン・テートはブルース・リーに稽古を付けてもらっており、映画のアクションシーンは自分でスタントを行っていたのです。
ちなみに、中国では“ブルース・リーの描写に問題がある”この映画が上映禁止だったりします。中国の国家権力の凄さが垣間見えます。
マンソンファミリーのテックスはどんな奴だったのか
カルト集団(と呼ぶべきかどうか…)マンソンファミリーについて詳しい説明は下の記事に譲ります。とにかく、映画におけるマンソンファミリーの描写は“ほぼそのまま”だと強調しておきます。
その中でも、チャールズ・マンソンの右腕とされた“テックス”は実在の人物です。
彼は学生の頃は優等生でスポーツマンな、魅力的な人物でした。
メソジスト派の家族ですくすくと育った信仰心溢れる青年で、教会の青年グループのリーダーも務めていました。
ところが社会人になってからのある日、ロサンゼルスを旅していたときにサイケデリックで音楽的なヒッピーカルチャーに出会い、衝撃を受けます。
そして彼はマンソンファミリーのメンバーである女性に出会い、チャールズ・マンソンに引き合わされます。
彼はチャールズ・マンソンのカリスマにすっかりハマってしまいます。
ほどなくメンバーへの加入を決め、いつしか中心的なメンバーとして活躍するようになりました。
最終的に、彼はシャロン・テートを含め7人もの殺人を起こしてしまいます。
好青年とも呼べる青年期からの落差に愕然としますね…。一体何が、彼をここまで狂わせたのでしょうか?LSD(刺激的な酩酊を生む幻覚剤)のせい?チャールズ・マンソンの洗脳?
彼は獄中でインタビューを通して事件について述べた著書『Will You Die For Me?』を出版しました。
カリフォルニア州では死刑が廃止されたため、彼は今なお刑務所に収監されています。
今まで17回の仮釈放要求を申請しましたが、その全てが却下されています。
二人のモデル
二人の主人公リック・ダルトン(ディカプリオ)とクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。彼らは創作の人物で、実際の事件には登場していません。
クエンティン・タランティーノ監督はインタビューで、こう答えています。
9年前くらいに撮影していた僕の映画に出演していた年輩のスターと彼のスタントダブルの関係を見ていて思いついたんだ。そのスタントマンは明らかに僕のためではなく、長年組んでいたスターのために仕事をしていた。「いつかハリウッドに関する映画を作るとしたら、この二人のような関係の男達の話を盛り込もう」と考えていたんだ
また、イギリスのthe telegragh紙によると二人のモデルはバート・レイノルズとそのスタントマンだといいます。
ただし、バート・レイノルズ自身はタランティーノ作品に出演していません。
「年輩のスターとスタントダブル」からインスピレーションを受けて物語を着想し、実際にキャラクターを作り込んでいく上でバート・レイノルズをモデルにしたと考えるべきです。
また、監督は『リック・ダルトンは複数の西部劇スターをモデルにしている』とも述べています。
バート・レイノルズの経歴をみると、テレビの西部劇の人気番組「ガンスモーク」で知名度を上げ、その後イタリアに渡りマカロニウエスタンで主演を重ねており、『ワンハリ』の主人公を彷彿とさせますね。