マフィアの変遷:ニューヨーク五大ファミリーを中心に

“ゴッドファーザー”や“グッドフェローズ”などの映画で有名な、「マフィア」

マフィアとは本来は「イタリアのシチリア地方を起源とする組織犯罪集団」のことですが、様々な映画の影響もあって、アメリカで一大勢力を築いたアメリカンマフィア、特に「ニューヨーク五大ファミリー」が有名です。

なぜ、ニューヨーク五大ファミリーが特別有名なのでしょう?

マフィアはどうやって栄え、なぜ姿を消していったのでしょう?

(※厳密にはコーサ・ノストラとかシカゴアウトフィット等の分類がありますが、今回は大ざっぱに「マフィア」で括ります)

ブラックハンド時代(1890~1910年代)

アメリカのマフィアの始まりは1890~1910年代にさかのぼります。
この時期アメリカには外国からの移民が多くありました。彼らは同じ出身同士で固まり、小さなコミュニティを形成していました。特にニューヨークは多くの移民でごった返していました。

ところが、政治的後ろ盾のない彼らを暴力で恐喝し、金を巻き上げるならず者がいました。
彼らのようなストリートギャングはブラックハンドと呼ばれていました。彼らこそが、後のマフィアの走りです。

(ゴッドファーザー2で若き日のヴィト・コルレオーネに殺害された、街のヤクザのようなやつですね)

同じ出身地の住民たちを守る「用心棒」のような一面もあったかもしれませんが、実際の所は法外なみかじめ料を強引に要求していたから迷惑なものですね。
脅しの手紙を送って金を要求し、支払わなければ放火、誘拐、店舗の破壊を行いました。

なお、脅しの手紙には黒い手形をつけたことから、“ブラックハンド”と呼ばれたそうです。

特にシチリア人ギャングは他と比べて高い組織力と結束力を誇っていました。
トラブルには近隣の街のブラックハンド同士が連携して対応し、他のギャング集団を圧倒しました。

禁酒法時代(1920年代)

街のヤクザだった彼らを飛躍的に大規模にしたのが、禁酒法でした。

その名の通りアルコールを飲むことを禁じた法律ですが、アメリカ国民は誰しもその法律を守りもせず、密輸された酒や密造酒を飲むのが当たり前になってしまいました。

結果として、酒の密輸・密造を牛耳っていたマフィアは多大な利益を手にします
従来の稼ぎとは次元の違う巨額の資金を手にし、多くのマフィアが急速に富裕化しました。さらに、潤沢な資金は警察や政界への賄賂をも可能にし、マフィアが世間で大きく幅を利かせ始めます。

また、なぜニューヨークに大きなマフィア組織が形成されたのかも、この時代にヒントがあります。

当時ニューヨークは海外からの酒の調達&国内への流通の一大拠点でした。密輸の上流を一手に担っていたのだから、その儲けは推して知るべし。
これらの業務には多くの人材と組織力が必要とされるため、次第にニューヨークのギャングは大規模化&全国展開していきます。

規模が大きくなるとともに、密輸で手に入れた莫大な資金力も備え、彼らは世界的にも有数のギャングへと成長していったのです。

そんなわけで、禁酒法は後に“希代の悪法”と散々な評価を受けます。

アル・カポネ

禁酒法時代に莫大な稼ぎをあげたシカゴのギャング。
マスコミ、警察、裁判官、シカゴ市長まで買収しており、事実上シカゴの帝王であった。2万軒のもぐり酒場、3000軒の売春宿、700人の殺し屋を擁していたと言われている。

マフィアの近代化(1930年代)

1933年にはとうとう禁酒法が終わり、マフィアは酒の密輸による利益を失いました。

巨大化した組織を維持するには巨額の資金が必要です。
マフィアは娯楽業賭博業にシフトしていく必要に迫られました。労働者利権の蜜をすうため、労働組合にまで進出していきました。
また、当時ニューヨークでマフィアへの締め付けが強化されたこともあり、ニューヨークから出て全米(特にラスベガスやフロリダ)へ進出していきます。

時を同じくして、従来のマフィア(血縁地縁を重視する伝統主義)と、新世代のマフィア(地元・血縁にこだわらず経営を追求するビジネス主義)の間で対立が起きつつありました。
商店街vs全国チェーンスーパーのようなもんです。

結局は、洗練されたビジネスモデルをもつ新世代マフィアたちが権力を握り、ニューヨークの組織は五つのファミリーに編成されました。
普通は一つの都市は一つのファミリーが支配するものですが、ニューヨークは数と規模が大きすぎたので、五つのファミリーが共存することとなったのです。

僕らが映画で目にする多くは、この時代、あるいはそれ以降の新世代マフィアです。(マフィア映画の代表格『ゴッドファーザー』はちょうどこの移り変わりの時期ですね)

これらの動きと同時に、新しい世代はマフィアの秘密組織化を徹底していきました。
マフィアのメンバーですら、誰が他のメンバーかを知ることはできず、上層部の所在も謎に包まれ、そもそも外の人間にはそういう組織があることすら悟らせませんでした。

実際、警察はニューヨーク五大ファミリーの存在すら把握できておらず、20年以上その存在は謎のままでした。

トーマス・デューイ

当時のニューヨークの司法検察官。マフィアに対し厳しい取り締まりを行った。
これで知名度を上げたことで、後に政界に進出。清廉潔白な性格と知名度でめきめきと頭角を現し、共和党候補としてと大統領選挙に出馬するまでになったが、惜しくもルーズベルトに破れた。

マフィア全盛期(1940年代~1960年代)

この頃には組織が安定してきており、警察もマフィアの全容を把握できず、マフィアが全盛を誇っていたころです。

マフィアの内部には、依然として内部抗争の火種がいくつも存在しました。

地元を重視するか、全国経営を重視するか。
血縁重視(シチリア出身者の優遇)か、それにこだわらないか。
リスクの高いが利益もでかい麻薬取引に手を出すか、安全な従来の稼ぎにとどまるか。
また、ニューヨーク五大ファミリーも、実力を持ったボスが他のファミリーのボスを傀儡支配するなど、対等な共存体制が崩れたりしました。

もっとも、内部対立はあるものの、「マフィア」という存在自体は揺らがず、大きな影響力を保ち続けていました。

マフィアの衰退(1970年代以降)

1957年、ニューヨーク郊外の田舎町の家に、不自然な高級者とスーツをまとった100人以上男たちが集結していました。
不審に思った警察官が踏み込んだところ、なんと、ニューヨーク五大ファミリーの幹部会議の真っ最中。幹部たちは慌てて逃げますが、それでも多くの幹部が逮捕・起訴されます。これにより、マスコミにより大規模な犯罪組織が存在していた事実が全米に報道されます。

さらに1963年、一人の下っ端マフィア:ジョゼフ・バラキによって、はじめて“沈黙の掟”が破られます。

“沈黙の掟”とは、マフィアのメンバー自身に求められる秘密保持の掟で、どんな理由があろうと組織の秘密を暴露をしたものは激しい制裁にさらされます。(たとえば突然行方不明になって、拷問死した死体で見つかるとか)

アメリカ政府はこれに対抗するため「証人保護プログラム」を導入しました。
秘密を暴露したものを国家機密レベルで生涯に渡って保護し、新しい居住地、パスポート、生活資金まで提供するものです。
ジョゼフ・バラキがこの制度に保護されることを条件に沈黙の掟を破り、内情を暴露したことで、とうとうアメリカ政府や世間がマフィアの全貌を把握してしまったのです。

さらに、世論の盛り上がりを受けFBIもマフィア対策に乗り出します。

実は、アメリカFBIは長年マフィアに対して消極的な姿勢を示していました。
FBIにとって絶対的な存在だった初代FBI長官J・エドガー・フーヴァーが、マフィアの存在を否定あるいは黙認していたことが大きいと考えられています。しかし、彼が死去したこともあり、徐々に風向きが変わっていきます。

FBIがマフィア対策に本腰をいれはじめ、強力な組織犯罪対策法も整備され、マフィア幹部の当局への投降、大物幹部の一斉逮捕等を経て、マフィアは急激に弱体化していきました。

J・エドガー・フーヴァー

FBIを設立し、自ら48年間も長官を務めた近大アメリカを影で牛耳っていた伝説的な人物。
後年、ギャンブルが大好きだったこと、マフィアから賄賂ももらっていたことが明らかになっている。自身の同性愛の証拠を握られていた…などのウワサも。
クリント・イーストウッド監督、ディカプリオ主演の映画『J・エドガー』が有名。

現在

現在、マフィアに隆盛を誇った当時の面影はありません。壊滅状態と言っていいでしょう。

それでも、シカゴやニューヨーク等の一部の都市では、未だに犯罪組織として一定の勢力を維持していると言われています。

2011年にはFBIがニューヨークのマフィアの大量摘発を行い、127人ものメンバーが逮捕されています。

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