テネット/ニールの正体徹底考察で見える壮大な友情の“回文”

映画テネットは難解な映画ですが、大別すると「時間の逆行が入り組んでてわかりづらい」と「説明が不足している」に別れます。

「時間の逆行が入り組んでてわかりづらい」点は解説してくれるサイトがたくさん存在するので、そちらを参照していただくとして、

自分は「説明が不足している点」を考察していきたいです。

とはいっても、映画が終わっても曖昧なところは無数にあるようで、実はこの2点に集約されていきます。

「相棒のニールはどんな過去を持っているのか」

「主人公は今後どうなるのか」

この2点のみを、じっくり掘り下げていきたいと思います。

ニールを徹底考察

ニールは秘密を知っていた

ニールは、映画の中盤から既に謎の多い存在でした。

最初は何も知らないエージェントのフリをしていましたが、実は主人公より先にこの事件のことを知っていました。

空港では、逆行してきたガスマスク姿の男が主人公と気づき、黙って見逃すという判断をしています。

ちなみに、主人公と戦ってた逆行主人公も、うっかり殺さないように助けています。

大慌てで止めるニール君。

この時点で明らかにニールは時間の逆行に慣れている様子を見せています。

他にも、カーチェイスのシーンです。

主人公はこの時点ではまだ「プルトニウム214」が「世界を滅ぼすアルゴリズムの一部」だと気づいていません。

この時点では単なるプルトニウム、核燃料と思っています

そのため奪還したプルトニウムをみて、俺の知ってるプルトニウムと違う!と驚きました。

普通プルトニウムの形状なんて知らんやろ、とツッコんではいけない

しかし、戸惑う主人公に、ニールはこう叫びます。

そう、この時点でニールは逆行の仕組みだけでなく、事件の全貌をある程度把握しているのです。

そもそもが冒頭のオペラのシーン。

テロリストに銃を向けられ、絶体絶命の主人公を救った逆行した男も、よく見ると…

これもニールですね!

ニールは主人公より先に逆行を使いこなしており、テネットとも関わりがあり、主人公を重要視しています。

彼はこの後に起こることもある程度把握していたことがわかります。

では、どうやって彼はそれを知ったのでしょうか。

彼は誰に雇われたのか

映画の中でもその点を主人公に疑われ、

実は敵の手先なのか、武器商人の老女プリヤの手下なのかと胸倉掴んで問いつめられます。

それに対して、彼はこんな意味深な答えを返します。

聞かない方が身のためだ
もし全てが終わって生き残っていたら
僕の人生を聞かせてやる

字幕から直接書き写すと、この通りです。

ところが、英語のセリフをもっと忠実に訳すと、ほんの少しだけニュアンスが異なってくるのです。

英語

Can’t possibly do you any good to know that right now. When this is over, we’re still standing, and you still care, then you can hear my life story, okay?

今は聞かない方がいい
もし全てが終わって生き残って、それでもまだ気になるようだったら
僕の人生を聞かせてやる

映画のセリフのままでも間違ってはいませんが、下の訳の方がより「ニールはこの後起こる出来事や結果まで把握している」=「未来の知識がある」というニュアンスが強くなりますね。

この時点で、ニールを雇った人物か、あるいはニール自身が未来から来たことが推測されます。


そして最終決戦の10分間の後、ニール自身からその真実が語られます。

主人公「誰に雇われたんだ」

ニール「まだわからないの?
君だよ!

もっとさきのことだけど

君の未来は過去にある
僕には何年か前
君には何年か後だ」

そう、ここで本人が明言するとおり、ニールは主人公自身に依頼され事件に関わっていたのです。

いつからきた?

では、ニールはどの時代からきたのでしょう?
可能性としてはこのふたつのどちらかです。

可能性①【過去】
主人公は時間を遡り、過去の世界でニールと出会い協力を依頼。ニールは時間を逆行することなく、主人公を助けにいった
可能性②【近未来】
この後主人公はニールと出会い、協力を依頼。ニールは時間を逆行して主人公を助けにいった

①の「過去から来た」説の根拠は、ニールのセリフにある『君の未来は過去にある』です。

この後主人公が過去に逆行し、ニールと出会い…という流れを示していると考えると納得できます。

一方で、②の「未来から来た」説を裏付けるようなセリフも出てきます。

前述のセリフの後に続けて、ニールはこんなことをいいます。

ヤバい任務だ きっと気に入るよ
これは壮大な挟撃作戦

誰の作戦だ

君だよ
今はその中間点だ

“挟撃作戦”、作中に登場した「過去と未来からの挟み撃ち」を指しているのでしょう。
この映画では、主人公は時間の流れに従って過去から敵を追いつめてきましたね。
ということは、挟撃作戦というからには、もう一方のニールは未来から来ていると考えるべきです。

ただしこれだけでは、どちらの説にしても証拠が弱く、セリフを深読みした推測の域を出ません。

そこでもっと考察を深めていきたいと思います。

ニール=マックス説

ここからは推測というより妄想の域ですが、キャットの息子マックスがニールではないか、という説もあります。

証拠

  • ニール役の俳優は、映画撮影中に髪を金髪(マックスと同じ色)に染めている
  • マックスは通称で、本名がMaximilienだとしたら、逆さから読むとNeilになる
  • セイター(SATOR)の名前はラテン語でサトゥルヌス(※1、2参照)を意味している
※1 サトゥルヌス
ローマ神話で農耕と時を司る神様。自らの息子に殺されると予言される。
そのため五人いた息子を食い殺そうとするが、母親によって末子が逃がされ、後にその子に殺される。
 ゴヤ作『我が子を食らうサトゥルヌス』

※2バビロン遺跡の回文

SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS

右からも左からも上からも下からも読めるラテン語の回文。SATOR式とも呼ばれる
「農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする」という意味に翻訳できるが、SATORを農夫でなく農耕神サトゥルヌス、AREPOを人名でなく「大地の産物」と解釈して二重の意味を持たせているととることも出来る

もちろん、製作サイドからの見解はなく、推測にすぎません。

しかし、ニール=マックス説はとっても魅力的な説です。

なぜならこの説は、僕がこの映画でほのかに感じた違和感を、唯一解消してくれる説だからです。

ニールへの違和感

その違和感のひとつは、これです。

「なんでニールは、相棒面しているんだろう??」

もちろん、二時間の映画の展開の中で、友情を深めるシーンを盛り込む余裕がなかっただけかもしれません。

でも、僕にはどうしてもかすかな違和感があります。

過去に会って依頼されていた事情があるとはいえ、なぜニールは主人公にあそこまでの友情を感じていたのでしょう?

「君は仲介役だが よく聞け
目的はプルトニウムだ
任務後には殺される」
「それ、君にだろ?」
「俺次第だ」
「なら…いいかな」

なぜ二人からは、ただ協力を依頼してきた“同志”以上の親しさを、感じるのでしょうか。

「彼にはダイエットコークを」
「……。」
「任務中には飲まないだろ?」
「よく調べてるな」
「あー…、プロなら当然さ」
「俺はソーダ水だ」
「ウソだね」

そして、もうひとつ僕が腑に落ちなかったことがあります。

それは「映画の後、主人公はニールを勧誘できるだろうか?」という疑問です。

過去からにせよ、未来からにせよ、主人公がニールに会うことは問題なくできるでしょう。
でもその後、彼をリクルートするからには、どうしてもその結末を意識しないわけにはいきません。

ニールをこの作戦に挑ませた場合、彼の未来には100%の死が待っているんです。

あの主人公に、そんな勧誘ができるでしょうか?

いくら世界の危機とは言え、相手が確実に命を落とすのを知っていながら、それを黙って仲間に誘うなんて、出来るとは思えないのです。

そんな二つの違和感を唯一クリアできる説が、ニール=マックス説なんです。

「いやいや、キャットの最愛の息子を死なせるなんて尚更出来ないだろ!」と思うかもしれません。

僕もそう思います。

だから、こう考えています。

主人公は途中までニール=マックスだと気づいていなかったのではないでしょうか?

あくまで、根拠のない壮大な妄想ですが、こんな後日談があったとしたらどうでしょう?

映画の物語が終わった後、主人公は陰に日向にキャットとマックスを護衛する守護者になります。

武器商人の遺産を受け継いだ未亡人とその息子。
プリヤがいなくても、誰かに命を狙われる可能性は十分考えられます。

キャットは、自分を救い出してくれた主人公に最大限の感謝を示すことでしょう。

その子供であるマックスも、両親の不仲や母親の苦しみくらいはさすがに理解していたはずです。

母を救いだし、自分たちを守り続ける主人公にマックスが尊敬や憧れの気持ちを持つことに不思議はありません。

成長したマックスは、主人公の背中を追うように、立派なエージェントへと育っていきます。もしかしたら少年期は、直接主人公に教えを乞う、師弟関係だったかもしれません。

しかしいつしか、主人公も「成長してきたマックスがニールと似ている」と気づいていしまいます。彼こそが、ニールだったのだと。

このままではマックスを死に追いやってしまう…主人公は苦悩します。

マックスがエージェントになることに反対しだし、普通に生きろと説得します。彼に『逆行』の知識を教えることも拒否します。

ところがある日、主人公は命を落としてしまいます。(死因については後述。)

悲しみに暮れたマックスですが、ついに決意。
母親から『逆行』の秘密を聞き出します。

そして事件当時の主人公を補佐するため、彼にもう一度会うために、現代へと逆行していきます…

もちろん細部に粗は多いのですが、概ねこう考えると話の筋はだいぶ通ってきます。

ニールが初めて主人公と会ったとき(ダイエットコークの話をしたときですね)、彼は主人公の顔だけをじっと見つめ、言葉に詰まっているように見えました。

もしかしたら、未来では既に死んでいるはずの彼に再会でき、胸がいっぱいだったのではないでしょうか。

考え出すと、色々なことが怪しく思えてきます。

主要キャラクター同士なのに、ニールとキャットが言葉を交わすシーンがほとんどないのはなぜなのか?

(なお、彼女はニール=マックスだと気づいていないと思われます。もしそうだとしたら、どんな手を使ってでも我が子を命の危険にはさらしたりはしないでしょうから)

キャットの行動原理に関わる重要な要素であるにも関わらず、子供時代のマックスの顔を一切映さないのはなぜなのか?

心なしかカバンのデザインも似ている。

最終局面の10分間の後のシーンで、ニールは最後にこう言って主人公と背中を向けます。

I’ll see you in the beginning, friend.
直訳:“はじまり”で会おう、友よ

そしてその直後に、プリヤを殺害し、母親に連れられたマックスを眺めるシーンに繋がるのです。

なんだか意味深ではないでしょうか。

主人公の死

最後に、主人公の死について解説します。

最終局面の10分間の後、主人公たちは部隊の隊長に銃を向けられます。

「生きては帰れない任務か…」

そう呟くのですが、急遽隊長は“アルゴリズム”を分解しだし、それぞれに手渡しこう言います。

「これを隠せ」

若干説明が足りないシーンですが、以下のように理解できます。

再度悪用される危険があるため、“アルゴリズム”は絶対にみつからないところへ隠す必要がある。

そして、拷問で口を割る可能性もあるため、隠し場所を知っている人間を殺害してでも秘密を守らねばならない

当初、隊長は主人公とニールを殺害した後、一人でアルゴリズムをどこかに隠し、その後自らも命を絶つつもりだったのでしょう。

“我々は死ぬ”

しかし、共闘して死線をくぐり抜けた二人を撃つことが出来ず、「それぞれでパーツを隠し、自ら命を絶て」と言います。

そして隊長はこう続けます。

いつ死ぬかは自分で選べ。

では、自分が死ぬ時を選べるなら、主人公はいつにしたのでしょうか?

もしも僕だったら、我が子を守れる時に死ねたら最高だなと思います。

ならば主人公は、未来の世界で、マックスを守って死んだのではないでしょうか?

そう考えることで、全てが繋がります。

ようやく、「なぜニールは主人公の相棒面しているのか」「なぜ主人公はニールが事件に関わることに反対しなかったのか」という二つの違和感が解消するのです。

主人公が、死地に赴くニールの逆行を止めれなかったのは、既に命を落としていたから。

ニールが主人公に友情を感じ、自ら犠牲になることすら厭わなかったのは、主人公も身を挺して自分を救ってくれたから。

主人公は身を挺してニール(マックス)をかばい、

ニールもまた、身を挺して主人公を救いました。

そう、この物語は、お互いのために命を懸けたニールと主人公の、壮大な友情の“回文”だったのです。

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