「黄金のアデーレ」の裏話いろいろ。彼女とクリムトの関係は?

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目次

  • 『売却』の真実
  • 落札額にまつわるトリビア
  • 韓国仏像盗難問題との違い
  • あの名作との意外な関係
  • アデーレ・ブロッホ=バウアーとクリムトとの関係

『売却』の真実

映画のラストにもありましたが、主人公であったマリア・アルトマンさんが、その後アデーレの肖像画を美術館に売却しました。

実は、これについては賛否両論があります。
特にオーストリア側にしてみれば噴飯もの。「親族の思い出とかなんとかいってオーストリアに返還を要求しておきながら、売っちゃうのか!結局は金じゃないか!」と。

ただ、この取引がオークションによる競売でなく、ロナルド・ローダー氏への売却だという点は考慮しておくべきです。

単なるお金目的だったら彼を選ぶ必要はどこにもありません。広く競売にかけるほうが値はつり上がるでしょう。
しかし彼女はあえてローダー氏に売却したのです。

ロナルド・ローダー氏は化粧品で有名なエスティローダー社の社長です。
とはいっても、男の僕にはさっぱりわからないのですが…。どうやら三越とか高島屋とかに出店するような世界的な化粧品メーカーだそうです。

経営者であると同時に、彼は「世界ユダヤ人会議」の会長でもありました。ユダヤ人の権利保護、中でも、ナチスにより略奪されたユダヤ人の美術品を取り戻す活動には長い年月をかけて熱心に取り組んで来た人物なのです。

また絵画は、劣化を防ぐための適切な管理が必要とされます。ただ飾ってあるだけではダメなんです。
売却当時、マリア・アルトマンさんはすでに90歳。本人もインタビューで、「自分や親族では今後の絵の管理を満足にこなすことができない」ことを売却の理由の一つに上げています。

…ここからは僕の勝手な想像ですが、彼女は最終的にロナルド・ローダー氏に絵画を譲渡するつもりだったのではないでしょうか?
しかし、正当な取引を重んじており、真摯に活動に取り組んできたローダー氏は彼女に「正当な対価」を支払うことに拘った。そして残りの余生を考えると十分すぎるほどの金額を支払ったんじゃないか…。
そんな空想をしてしまいます(^^;

ロナルド・ローダー氏は、取り戻した美術品はニューヨーク5番街にある小さな美術館「ノイエ・ガレリア(ノイエ・ギャラリー)」にて一般公開しています。
もちろん、あの肖像画もそこにあります。

趣がある外観がしっとりと素敵な美術館ですね。元々は個人の邸宅だったそうです。
入館料は20ドル。近くに立ち寄ることあれば、是非のぞいてみたいものです。

落札額にまつわるトリビア

「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」は、2006年6月に美術品の取引史上、最も高い金額である174億5000万円(1億3500万ドル)で取引されました。

バブル日本の象徴でもある「ゴッホのひまわり」ですら53億円。

当時ピカソの作品で最も高額だった「ヌード、観葉植物と胸像」でも101億円(1億640万ドル)。

それを上回る価格ということで、いかに凄いかがわかってもらえるかと思います。

しかし、わずか半年後にはこの最高値記録も更新され、2018年現在は史上13位となっています。美術品の世界ってすごいんですね…。

※参考:高額な絵画ランキング

1位 495億円 ダ・ビンチ『サルバトール・ムンディ』

2位 334億円 デ・クーニング『インターチェンジ』

3位 301億円 セザンヌ『カード遊びをする人々』

4位 234億円 ゴーギャン『ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの)』

5位 223億円 ポロック『ナンバー17A』

6位 201億円 レンブラント『マールテン・ソールマンスとオーペン・コーピットの肖像』

7位 200億円 パブロ・ピカソ『アルジェの女たち(バージョンO)』

8位 190億円 モディリアーニ『横たわる裸婦』

9位 181億5000万円 リキテンスタイン『マスターピース』

10位 181億円 ポロック『No.5, 1948』

11位 178億円 デ・クーニング『ウーマンIII』

12位 177億5000万円 ピカソ『夢』

そして13位が黄金のアデーレこと『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I』です。

ちなみにちょっと面白いのが8位のモディリアーニ(190億円)。決済にアメックスのセンチュリオンカードが使われたので、およそ2億円に相当するポイントが手に入ったそうです。
そっか…俺の生涯年収をポイントでゲットか…。

韓国仏像盗難問題との違い

この映画を見て、ふと、一時期日本でも話題となった韓国の仏像返還問題を思い出しました。これも美術品の返還を求めるトラブルでしたね。
「黄金のアデーレ」とあの事件はどう違うのでしょうか。

これは日本のある寺から数億円相当とされる仏像が韓国人窃盗団に盗まれた事件です。犯人は韓国国内で逮捕され、盗まれたニ体の仏像も回収されました。

本来ならばそのまま日本に返還されて一件落着なのですが…ここでなんと韓国の浮石寺が「この仏像は本来韓国のものだから、日本に返還する必要はない」と訴訟をおこしたのです。

さらに韓国の地方裁判所では「日本に返す必要はない」との判決が出てしまいます。当然日本は激怒。当時のネット界隈での嫌韓の風潮と相まって、大きな話題となったことを覚えています。

映画との違いですが、まず所有権がどちらにあるか、法的に証明しづらいところです。

映画では略奪自体が50年前と比較的最近で“所有権を示す文書”も残っていました。
しかし韓国との仏像問題は数百年も前の話。

韓国側の主張:この仏像は和冦(日本の海賊)が韓国から略奪したものだ(証拠なし)

日本側の主張:この仏像は李子朝鮮時代(韓国で仏教が弾圧されていた時代)に日本に平和的に託されたものだ(証拠なし)

と、双方の主張は平行線。どちらにしろ立証できない状態になっています。

もうひとつ、裁判に至る経緯も大きく違いますね。
映画では法に則った裁判に訴え返還を勝ち取りましたが、韓国の事件ではまず違法な盗難がありました。その後に韓国のお寺から「日本に返還してほしくない」という訴えがだされたのです。

ただ、よく誤解されていますが、日本対韓国の裁判ではないことに注意。盗品を回収した韓国政府(韓国の警察)に対し、韓国のお寺が裁判を起こしたのです。
また韓国政府は地裁の「返還は不要」との判決に抗議し、高等裁判所に控訴中です。

この事件を思い浮かべて「オーストリア人は怒らなかったのかな」と思ってしまいましたが、映画と仏像問題はだいぶ性格が異なるようです。同列に語るべきではないのでしょうね。

無理矢理日本で例えるなら、

実は葛飾北斎の富岳三十六景は、アメリカ人の外交官が日本に滞在中に購入したものだった

しかし戦時中に特高によって没収され、色々あって日本の美術館に集蔵。以後多くの日本人に愛されてきた。

でも本来、正当な所有者は私(外交官の姪)だからアメリカに持っていくわね!

ってところでしょうか。(当然、上記は仮定の話ですよ!)

…こう考えると、本来の所有者がアメリカ人の姪にあることは理解できるけど、反対したくなる気持ちも分かる気がします。

あの名作との意外な関係

さて、オーストリアにおけるナチスの弾圧…と聞いて、ある映画を思い出しませんか?
皆さんもご存じのあの名作『サウンド・オブ・ミュージック』です!

あの映画でも、オーストリアに迫りくるナチスから逃亡するため、トラップ一家が国外へ脱出するくだりがありました。
(なお、トラップ一家が逃亡したのはユダヤだからではなく、ナチスの命令に従うのを拒んだからです)

『サウンド・オブ・ミュージック』では「悪いナチスが迫ってくる」「一部で支持者もいる」という程度の描写でしたが、『黄金のアデーレ』をみると、オーストリア国民全体がナチスを歓迎していたという当時の異様な空気が理解できますね…。

実はナチス侵攻前のオーストリアでは軍事政権による独裁が行われていました。反政府主義者は摘発、世界恐慌への対抗策として国家による経済統制も行われており、住民の反感が高まっていました。
その結果、旧政府を粉砕したナチスが「救世主」のように歓迎されたのです。

しかしその結果はご存じの通り。
当時オーストリアには19万人のユダヤ人が住んでいましたが、ナチスの弾圧により12万人以上が国外に亡命、6万人以上が強制収容所で死亡。
オーストリアで生き残ったユダヤ人は、わずか5512人でした。

脱出したユダヤ人も、サウンドオブミュージックのモデルとなったトラップ一家も、亡命後は貧困に苦しんでいました。
あの名作の背後には、こんな重苦しいバックグラウンドがあったんですね…。

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アデーレ・ブロッホ=バウアーとクリムトとの関係

官能的で退廃的な美を描いたクリムトの絵画は、当時から賞賛と批判の両方を集めていました。
どことなく妖艶さが漂う妊婦を描いた作品『希望Ⅰ』は、あまりの批判に長年公開を禁じられていた、なんてエピソードもあります。

また画家クリムト本人も、非常にエキセントリックな女性関係で知られています。

多いときには15人(!)もの女性が彼の家に寝泊まりしていたほどです。何人もの女性が裸婦モデルを務め、妊娠した女性もいました。
彼は生涯結婚はしませんでしたが、多くのモデルと愛人関係にありました。非嫡出子の存在も多数知られています。

女性を妖艶に、官能的に描く彼の才能が女性を引きつけたのでしょうか…。

そうなると、気になってくるのはクリムトと、モデルを務めた叔母アデーレとの関係です。
マリア・アルトマンさん自身も気になったらしく、依然、母親に「叔母さんとクリムトは愛しあっていたの?」と尋ねたことがあるそうです(笑)
母親は「どうしてそんなことを聞くの。あの二人は知的な友情で結ばれているのよ」と彼女を叱ったとのこと。

ですがマリア・アルトマンさんは、小さい頃の記憶を振り返りながら「でも、二人の間にロマンスはあった可能性は非常に高いと思います」と述べています。

マリア・アルトマンさんは叔母のアデーレについて、「病がちで、特に偏頭痛に苦しめられており、ヘビースモーカーで、非常に華奢で、憂鬱症だった。顔立ちは理知的で細長く、洗練されていた。傲岸不遜な性格で…常に観念的な思念を追求していた」と評しています。

…どうやらとても気むずかしい性格の女性だったようです。こういう性格の女性が、クリムトのような突き抜けた天才に惹かれてしまうのも、なんとなくありそうな気がします。

そしてもう一点、映画での描かれ方と異なり、マリア・アルトマンさんは彼女について「私は彼女の笑顔をみたことはありませんでした」とも述べています。

…だとしたら、あの絵で彼女が浮かべている恍惚とした微笑みは、一体なんだったのでしょう?
そして、これだけ素晴らしい肖像画を一枚完成させていながら、彼女がクリムトにふたたび自分の肖像画を依頼したのは、一体なぜなのでしょうか…。

しかし、すべては歴史の闇の中。
残されたのは2枚の肖像画だけなのです…。


黄金のアデーレこと『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ』

彼女のもう一枚の肖像画 クリムト作『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅱ』

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