映画が始まるまではドキュメンタリーかと思っていたのですが、あまりに都合の良すぎる展開に、すぐに「さては、ドキュメンタリー“風”だな…」と気づかされます。
実際のところを調べてみました。
人生タクシーは英語ではそのまんま“Taxi”というタイトルで、同タイトルの映画と区別するため“Taxi Tehran”と呼ばれたりしています。
ちなみに原題は『تاکسی』。読めない…。
(Google翻訳に寄れば「タクシー」だそうです)
さて海外のwikipediaなんかでは思いっきり『docufiction』であると明記してます。
ほかにも『モキュメンタリー』(mock:疑似)とも呼ばれています。
どちらも、「現実のドキュメンタリーを装った技法」であることは変わりません。
残念ながら、ジャファール・パナヒ監督本人のインタビュー記事などは見つけることが出来ませんでした。
まぁ、一応映画撮影を禁じられた身で、「これは映画じゃないよ!」という体で撮影した作品ですからね。
さすがに本人が「これは、実際は台本のあるフェイクドキュメンタリーの映画です(`・ω・´)キリッ」とコメントするわけにはいかないでしょう(笑)
しかしいくつかの海外サイトで面白い情報をみつけたので紹介します。
まず、パナヒ監督は、最初は実際のタクシー客を携帯電話で撮影するところから始めたそうです。
ところがやっぱり、乗客の一人が「プライバシーを守りたいから撮影は止めてくれ」と頼んできました。
たしかにイランの情勢を考えたとき、映画に一般市民を起用することは、彼らに「協力者」として危険が及ぶ可能性がありますからね…。
そこで監督はドキュメンタリー“風”にすることを思いつきます。
監督は車内に三台のBlackmagic Design社のポケットシネマカメラを設置しました。
デジタル一眼レフくらいのサイズながら、映画に耐えうる映像を撮影できる優れものです。
想像してたよりは大きいですが、このサイズのカメラをみて「映画撮影だ!」と思う人は少ないでしょう。
劇中でも「防犯カメラ」と思ってしまう人がいましたね。
しかし今度は、車内で撮影するとどうしても薄暗くなってしまうという問題にぶち当たりました。
いくら良いカメラでも、限界があったのですね(^^;
さすがに人工的な照明を用意して車内を照らすのは不自然ですし…
そこで監督は、車にサンルーフを設置して明るさを確保するという荒技にでたそうです(笑)
たしかに、「サンルーフ」と「防犯カメラ」なら、車についていても違和感はないですね…
なお、イランではタクシーの規制が少なく、仕事が終わったサラリーマンが副業的にタクシー運転手を営んだりもするそうです。
パナヒ監督の行為も「お金がほしいのかな?」と自然な行動に見え、気づかれにくかったのでしょう。
また、映画にでてきた登場人物は、ほとんどが非専門家の役者を使っています。
彼らはみんな匿名で、個人を特定できないよう配慮されているそうです。
例外は、監督と姪。
それにバラの花束を持っていた人権運動をしている女性弁護士です。
彼女は国際的にも有名な実在の人権活動家本人です。
彼女は女性の人権保護を中心に活動していますが、そのために何度もイランの体制を批判してきました。
2011年にはとうとう「国家の安全保障に害を与えた」との罪で逮捕されてしまい、収監されます。
しかし獄中の2012年には、EUが優れた人権活動に送る「サハロフ賞」をジャファール・パナヒ監督と共同受賞。
その後、各所からの批判に配慮したのか、翌2013年に釈放されます。
その後はこの「人生タクシー」に出演したり、人権活動を精力的に続けましたが、2019年に再び逮捕されてしまいます。
再び国家の安全保障侵害や、イランの最高指導者ホメイニ師を侮辱した罪だそうです。
彼女は2020年現在もなお収監中。
イランの抱える問題は、まだまだ解決していないようです…。
イランについて、ひとつだけ付け加えておきます。
世界一周旅行中の人に聞いたところ「一番良い思い出のある国は、イラン」だそうです。
人々は旅行者にも優しくもてなし好きで、旅行中に何度も家に招待されたそうです。
イランは決して悪い国じゃなく、
人々が温かく、素敵な国だと言います。
この映画を観ていてもなんとなくそれを感じます。
話好きで、心が優しく、人懐っこさを感じました。
温かい人々、冷たい政治。
どちらもイランの本当の顔なのでしょうね。