ボーリングフォーコロンバインネタバレ感想/監督の考察に疑問を抱く

正直言って、苦手な作品だという思いは拭えません。

そもそも「突撃アポ」というやり方自体がフェアじゃ無いと思うんですよ。
こちらは準備万端で、心の準備すら出来ていない相手に論争を挑む姿勢に、卑怯な不意打ちという思いが拭えません。
相手を醜く卑怯に見えるような意図的な編集も相まって、相手に対する敬意を感じません

銃反対派の僕ですら不快な気持ちにさせられるのです。

しかし、それを加味してもやはり、ドキュメンタリーとしての価値は高いです。

日本人の僕には「銃所持問題」の感覚がいまいちピンとこず、ふんわりと「アメリカって重犯罪が多くて怖いよね」「アメリカじゃ簡単に銃が買えるらしいよ」「銃乱射事件の時にアメリカライフル協会の態度が話題になるよな」という印象を持ってはいましたが、

この映画はそれを「本当に恐ろしいことだ…」という認識に進化させてくれました。

この映画に対し「解決策が見えない」との批判はあろうけど、別に解決策を提示する必要は無いとも思います。
「解決策がわかんないなら文句言うなよ」という空気になってしまうと、「銃社会がおかしい」という問題提起すら誰もできなくなってしまいます。

ドキュメンタリーの真価は『問題の可視化』にこそあります。

多少の誇張や、眉をひそめる態度があるとはいえ、「銃社会やばい」というメッセージさえ伝われば、ひとまずこの映画は成功と言えるのでは無いでしょうか。

アポなしについては、「正面切った議論を申し込んでもアポすらとれない」という背景は加味してあげるべきですが。チャールトン・ヘストン氏へはずっと面会アポを申請し続けても叶わなかったが故に、ああいった行動にでたそうです。

もっとも、この映画について、僕が賞賛しきれないのも事実です。

まずひとつは、銃犯罪の原因の考察が的外れと思う点。

この映画では「銃所持の多さでは無く、メディアによる恐怖を煽る報道こそが銃犯罪の元凶だ」と喝破されていましたが、僕は反対です。

「カナダだって銃所持率が高いのに犯罪は少ない」ことがその論拠とされていますが、カナダでは厳しい許可制の下、殺傷力の高い銃や拳銃については制限が厳しく、アメリカとは異なります。(※僕自身がカナダに詳しいわけでは無く、あくまでもネット情報等を参考にしています。)

監督が自説の「メディアの報道姿勢に問題がある」という部分を強調するために、この部分を意図的に無視した可能性もありますが、もしかしたら、アメリカ人であるマイケル・ムーア監督自身が銃に対する感覚が麻痺しており「銃はすべて、対人間用の銃」と認識してしまっている線も捨てきれません。

郊外でのハンティング用の猟銃を持つことと、市街地で対人用の拳銃を安易に持つことは、全く意味合いが異なります。
事実、日本では39万庁もの狩猟用の銃が登録されていますが、国内で発生する銃撃事件のほぼ全ては違法な『拳銃』によるものであり、そのほとんどは暴力団関係者です。

日本における発砲事件(参考リンク)

日本における銃犯罪一覧(参考リンク)

銃とは縁遠い日本からみれば、『対人用の拳銃が容易に手に入る』社会の異常性こそが銃犯罪の温床であって、正直、メディアが恐怖を煽ってるどうのこうのなんて、大して関係ないことは明らかなんですけどね。


もう一点は、マイケル・ムーア監督の、過度に攻撃的で一方的な姿勢にあります。

アメリカと日本での議論スタイルの違いに起因する物なのか、彼個人の特性なのかはわかりませんが、いくらなんでも相手への敬意が無さ過ぎます。

僕自身、「自衛のための銃所持」には一定の共感を感じます

自分は銃社会反対派だし、対人用の銃なんて持ちたくはありません。しかし、我が子や奥さんの命は別問題です。
もしも自分の住む地域の治安が非常に悪く、悪人の間に銃が行き渡っているとしたら、もしも銃で自衛することで我が子の命が助かるのであれば、持ちたくは無いけれど、自分は銃を所持する決断をすることが想像できます。
その銃で100%身を守れるとは思えませんが、それでも出来るだけのことをしておかなければ、万が一の事件に巻き込まれ、取り返しのつかない自体なったときに後悔すると思うからです。

だから、銃所持派の気持ちもすごくよくわかります。
結局は彼らが銃を持たざるを得ない環境を変えていく、すなわち『対人用の拳銃が容易に手に入る』状態を段階的に縮小していく銃規制しか、アメリカの銃犯罪を減少させる方策はないと考えます。

だからこそ、この映画は賞賛できないのです。
まるで銃容認派を単なるガンマニアやトリガーハッピーかのように一方的に描く挑発的な態度は、意味が無いどころか逆効果であり、態度の硬直化を招き、分断を深めるだけです。

銃社会を憎むのは大いに結構。しかし、銃を持つ人間を一方的に責め立てても、彼らがそれを手放してくれるとは思えません。
護身用の銃所持について一定の理解を示した上で、過大な殺傷力を持つ銃、入手の容易さにたいして徐々に規制をかけていく、そしていつしか銃など必要の無い社会になる…
それこそが解決への唯一の道ではないでしょうか。


ただ繰り返しますが、ドキュメンタリーの真価は『問題の可視化』にこそあります。
そういう点ではこの映画は一定の役割を果たしてくれました。

賞賛できない点は多々あれど、自ら顔を名前をさらし、体当たりで国の現状を変えようとするガッツには感服するものがありました。
「銃社会をなんとかしたい」という意志の炎を大きくする観点から見ると、やっぱりこの映画は評価されるべきなんでしょうね。

エレファント』コロンバイン事件を舞台にしたもう一本の映画。なぜ少年が事件を起こしたのか、日常を淡々と描く。切ない。

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