今更ですが、「千と千尋の神隠し」のラストシーンにあった二人の再会の約束について考察します。
結論からいえば、二人は再会できると考えています。
ヒントは、ハクが手に入れたかったものにあります。
八つ裂き説は勘違い
千尋「ハク、私たちまた会えるよね?」
ハク「ああ、きっと会えるよ」
このやりとりに対して、巷では
「この約束はハクの優しい嘘で、本当は湯婆婆に八つ裂きにされてしまう」
という説が信じられているそうです。
いや、そんなわけないだろ!!
「湯婆婆に八つ裂きにされる」という説の根拠は、湯婆婆のセリフでしょう。
銭婆のところへいってしまった坊を連れ戻す、代わりに千尋を自由にしてくれと言うハクに対し、湯婆婆はこう言います
「それでおまえはどうするんだい!そのまま私に八つ裂きにされてもいいんかい!」
しかし、冷静に考えると、なぜ湯婆婆はハクを八つ裂きにする必要があるんでしょう??
千尋を自由にしたから?
魔法の修行を途中でやめるから?
便利な手駒が自分の元を離れる腹いせ?
どれもいささか大げさです。
実はハクは八つ裂きにされるほど悪いことなどしていないのです。
よくよく思い返してみれば、湯婆婆は脅しを使って人をコントロールしようとする傾向にありました。
「ここで働かせてください」という千尋を諦めさせようとするときは
「いちばんきつ~~~~い仕事を、死ぬまでやらせてやろうかあ~~~」と脅しました。
(でも実際の待遇はそこまで悪くなかったし、カオナシ騒動の時は守ろうとすらしてましたね)
坊にも、危険な目に遭わないよう閉じこめておくため
「おんもにはバイ菌がいっぱいあって病気になるのよ~~」
と脅していたことが示唆されています。
どうも湯婆婆には、ついつい大げさに脅す癖があるようです
彼女の脅しは『契約』や『ルール』とは全く別物、どんなに恐ろしげでもただの脅しなのです。
だから、ハクに「八つ裂きにしてやろうか」と言っても、本当にするつもりなど無かったのでしょう。
そういえば銭婆が湯婆婆を評して「あの人、ハイカラじゃないでしょ」と言っていましたね。
この表現からは怒りで元部下を八つ裂きにするような非道さは感じられません。
湯婆婆は案外優しい人なのかもしれませんね。
ハクに帰る場所はあるのか?
コハク川と呼ばれたハクが宿っていた川は、もう既に埋め立てられてしまったそうです。
しかし、現時点でハクは生きています。
どうも、川があるかないかはハクの命には直結していません。
“住む家があるかないか”くらいのもののようです。
つまり、ハクが魔法の修行をやめても死ぬわけでないのです。
もちろん帰る場所がなくて放浪することはあるかもしれませんが。
(スナフキンのような旅の暮らしになるんでしょうか。)
しかしこうなると、別の謎が出てきます。
川がなくても生きていけるなら、なぜハクは魔法の修行をしたのでしょうか?
ハクが手に入れたかったもの
なぜハクが魔法の修行をしたのか、その理由をもう一度考えてみましょう。
湯婆婆に弟子入りした当時、ハクは自分の川を失ったばかりだったと思われます。
おそらく、彼はショックを受けていたのでしょう。
畏れ敬われていた立場も奪われたかもしれません。
“コハク川”という自分の分身そのものを忘れ去られる悲しさ味わったのかもしれません。
それを止めることが出来なかった無力感もあったでしょう。
ハクはコハク川を失った無力感や喪失感を埋めるために、
魔法という力を求めたと考えられます。
もしかしたら「魔法の力で川を取り戻す」と考えていたかも知れませんが、
それも、川そのものでなく、ハクの心を満たすのが本来の目的でしょう。
ところが、ハクは千尋の力で本当の名前を思い出したと同時に、あることに気づいたのです。
あれ?自分の喪失感や無力感はどこにいったのだろうと。
コハク川そのものは宅地造成で埋め立てられてしまいましたが、千尋はコハク川という存在をしっかり覚えていました。(→喪失感の補完)
さらに自分が助けた小さな子供が、すっかり大きく成長していました。(→無力感の補完)
つまり千尋がコハク川を覚えていたという事実が、喪失感・無力感を感じていたハクの心を救ったのです。
だからハクにはもう、無理して魔法の力や川なんて、求める必要がなくなったのです。
千尋とハクはどうやって再会するのか
魔法の力がいらなくなったハクは、魔法の修行をやめるでしょう。
その後はどうするのでしょうか?
精霊として世界を放浪するかもしれませんし、コハク川の跡地に宿るのかもしれません。(※もしかしたら弟子ではなく助手として湯屋を手伝う可能性もあります)
しかし、ハクは本来人ならざる存在です。
人の姿で千尋と再会する可能性は低いと思っています。
(地元のイオンでばったり、とかなんかイヤですしねw)
それでもハクはずっと千尋を気にかけているでしょう。
そして何年も後、例えばこんな風に再会するのでしょう。
震災で津波が押し寄せ、逃げ遅れた千尋に危機が迫った
そのとき、“不思議な水の力”で千尋の体が持ち上がり、
水の中から助け出される。
間一髪助かった千尋は、ふと自分の手の中をみる。
そこには、白くてきれいな鱗が一枚握られていた。
千尋は気づく。
“今のはハクだ、ハクが助けてくれたんだ”
どうでしょうか。
ありがち後日談で恐縮ですが、僕はきっとそうなると信じています。