映画『フローズンタイム』ネタバレ考察と原題の意味の解説

frozentime
一見、何を言いたいのかよくわからないけど、アーティスティックで、『なんとなくイイよね』という非常にイギリス映画らしい作品でした。個人的には結構好きです。

ただ散漫な物語というわけでもなく、すぐにはわからないだけで、その根底には確実に何かあると感じさせてくれました。それがいったい何なのか、考察してみました。

目次

  • 主人公の性格が示すもの
  • 静止した時間の持つ意味
  • 原題『CASHBACK』の意味とは?
  • この映画の言いたかったこと
  • 関連映画

主人公の性格が示すもの

変わり者ばかりの映画でしたが、主人公の性格もなかなか特徴的でした。時間を止める能力を手に入れておきながら、やっていることが『女性を脱がせてスケッチするだけ』ってかなり変わり者だと思います。
もちろん、スケッチだけと言っても、当の女性にしたら許せないことではあるんですけれ
ど。

ただね、もし世間一般の男性が時間を止める能力を手に入れたら、絶対にもっとヒドイことしますからね!触るよ!!女性は知らないかもしれませんが、アダルトビデオの世界でも「もしも時間が止められたら」というネタだけで一つのジャンルを形成しているくらいなのです。男に期待してはいけない。

しかもなぜか、意中の女の子だけは絶対脱がさないという紳士っぷり。すごい。この主人公、男性目線だと「うわ、何コイツめっちゃ無欲やん」とびっくりしちゃうような変わり者なのです。紳士って言うより無垢で無欲。

正確に言うと、彼は「無欲」というわけではありません。絵の被写体が常に女性であることからも、むしろ、女性の身体に対して並々ならぬ関心を抱いているといってもいいでしょう。

彼の幼少期の回想なんて、まさにそうでしたね。スウェーデン娘の裸体が引き金となって、女性への興味でいっぱいになっている様子が描かれていました。男性諸君なら多かれ少なかれこういうタイミングはあるもんですが、それにしたって興味津々すぎる(笑)

ただ彼の性的関心は、「エロさ」というより、真摯に女性の美しさを追求する点で特徴的です。
それも、いわゆる“美しい女性”を狙っているわけでなく、あまねく女性たちそれぞれに美しさを見出していくスタイル。守備範囲ひっろい。
スーパーではすべての女性客をスケッチし尽くし、幼少期の思い出に残る女性たちも、必ずしも美人ばかりではありませんでした。

彼は「美しい女性」に対し、無垢で無欲な心境を保ちながら、ひたむきな関心を持つという、一見矛盾した態度を貫いていたのです。不思議な男。あるいはまさに、芸術家といえるかもしれません。

静止した時間の持つ意味

彼のスーパーマーケットでのぐだぐだした日常こそ、この映画のもうひとつの特徴でした。そこにはどういった意味がるのでしょう?

そのヒントは、主人公の個展にあると思っています。

彼が個展のテーマに選んだのは、映画の邦題でもある「静止した時間」。その内容は、あらゆる角度からヒロイン・シャロンの美しさを描き出したものでした。

正直、初登場時の彼女は決して魅力的な女性ではありませんでした。疲れの滲んだ、無愛想な冴えない女性で、とてもヒロインとは思えませんでした。
しかし主人公は“静止した時間”で彼女の一瞬を切り取ることにより、周りの人の心を揺さぶるような「美しさ」を見出したのです。

このことは、「ありふれた女性がもつ美しさ」を示しているだけでなく、「さえない日常がもつ素敵さ」を暗喩しているのではないでしょうか。

思えば、スーパーマーケットの同僚たちとの日々は、ホントにくだらないけど、なんだか仲良くて、案外楽しそうで、なんとなく好感を抱いてしまいました。
大げさかもしれないけど、ああいうありふれた一瞬って、何年もたってから無性に懐かしく、かけがえがなく感じるんですよね。この映画を「青春映画だ」なんて評する人もいましたが、それも領けます。

隣にいる女性。たわいもない毎日。それがどれだけ美しいか!ラストカットの雪が降る瞬間を静止させた様子も含め、この映画には“この一瞬を切り取る”ことへの憧れがこめられていたように思えて仕方ありません。

実はこの映画のショーン・エリス監督、本業は写真家なんです。

ショーン・エリス

11歳から写真を撮り始め、スチールカメラマンとしてキャリアを積む。1990年代後半には若手ファッションフォトグラファーの一人として一躍有名な存在になる。『ヴォーグ』誌や『ハーパース・バザー』誌のなどのファッション雑誌で活躍。ファッション写真の暗い面を「映画的」と表現して強調するスタイルを生み出し、その後ミュージックビデオや映画に進出する。

なるほど、写真を生業にされてる人だからこそ、「一瞬を切り取る」ことに並々ならぬ思い入れがあっただろうし、だからこそこんなストーリーになったのですね。

時間を止める力を得るこの映画が、低俗なコメディにならずアーティスティックになったのも領ける気がします。

彼の写真集「365-A Year in Fashion」

彼の写真集「Kubrick The Dog」

原題『CASHBACK』の意味とは?

さて、この映画のもう一つの謎は、原題の『CASHBACK』です。あまりに意味が分からなすぎたのか、邦題が『フローズンタイム』に変えられてしまったくらいです(笑)一体この原題にはどんな意味が込められていたのでしょう?

cashback

普通キャッシュバックと言えば、「現金を払い戻してくれる特典」のことですよね。しかし劇中、レジ係のシャロンが客に向かって“Cashback?”と尋ねるシーンがありました。しかもその時の字幕が「現金で?」でした。いったいどういうこと??

調べてみましたが、英語で“Cashback”というのはこんな意味があるようです。

1.現金引き出し◆スーパーやガソリン・スタンドでデビット・カードを使って買い物をしたとき、ATMを使うことなくレジ係が直接口座から必要な現金を引き出してくれるサービス

“Would you like cashback?”  ”Yes, 30 pounds please.”
「現金をお引き出しになりますか?」「はい、30ポンドお願いします。」

※デビットカードとは、預金口座と紐付けられた決済用カード。銀行が発行し、このカードで決済すると代金が即時に口座から引き落とされる仕組み。

ううむ、なるほど。Cashbackとはそういう使い方もするんですね。

…で、一体なぜこんなタイトルなんだ。

推理1

「どこでもお金を引き出せる便利なカード」から「どこでも美しさを鑑賞できる便利な能力」を連想させている。

うーん、我ながらちょっと苦しい。

推理2

「CASHBACK?」はイギリスではスーパーの決まり文句で、この映画の舞台がスーパーであることを示している。


例:タイトルが「こちら温めますか?」→コンビニが舞台だろなってわかる

タイトルが「ご乗車ありがとうございました」→電車が舞台なんだろなって


うーん、こちらはちょっとわかるけど、イマイチ弱いというか、スッキリしませんね。

証拠発見!

そこでいろいろ調べてみたら、とうとう見つけました。

監督が以前撮っていた作品で、この作品の前身となる短編映画、その名もそのまま『CASHBACK』。映画そのものは見つけられませんでしたが、そのあらすじ紹介です。

Ben Willis is an art student who works the night shift several times a week at the Whitechapel Sainsbury’s. He’s clear about the arrangement: he trades his time for money cashback, as he calls it. We meet his co-workers, Sharon, Barry, and Matt, and their supervisor, Jenkins. Ben’s colleagues are good at wasting time, but Ben talks to us about how he makes his shift go faster by imagining that time has stopped. We see this late-night world of drudgery through Ben’s eyes, as time does indeed stop, and he can get out his sketch book.

おお!こんなところにCASHBACKの意味の説明がありました!

He’s clear about the arrangement: he trades his time for money – cashback, as he calls it.
訳:彼は棚を整理する仕事は「時間をお金に交換すること」だとはっきりわかっている一彼はそれをcashbackと呼んでいる

※英語は素人なので訳し間違えているかもしれません…。

どうやら「深夜スーパーのクソ退屈な仕事」を皮肉って、「時間をお金と交換する行為=cashback」と表現していたようです。なるほどー、やっと納得!

この映画の言いたかったこと

そして、映画が言いたかったことも見えてきます。

当初主人公は、深夜スーパーのクソ退屈な毎日を「cashback」と皮肉っていました。しかし時間を止める力を得たことで、次第にそのクソ退屈な毎日の中の一瞬に素晴らしい「美しさ」を見出していきます。そして、彼の毎日を俯瞰した観客は、さえない日常の中にも、どこか素敵さを感じとっていきます…。

写真家であったショーン・エリス監督は『365-A Year in Fashion』というあえて日常的なスナップを集めた写真集をだしていました。

日常が、いかに美しいか。
それこそが、この映画の根底に流れていたテーマなのです。

ショーン・エリス監督の作品紹介

静かながら感情に訴えかける映像美、音楽のセンスに定評のある監督です。

ブロークン The Broken(2008)

ロンドンに暮らすX線技師のジーナが家族や恋人と父親の誕生日を祝っていると、突然大きな鏡が割れる。彼らは「鏡が割れると7年間不幸が続く」と冗談でやり過ごすが、その翌日、ジーナは自分と瓜二つの人間が自分と同じ車に乗っているところを目撃してしまい……。

メトロマニラ 世界で最も危険な街 Metro Manila(2013)

貧しい暮らしに行き詰まったオスカーは、家族で首都マニラを目指す。だが着いた途端金を騙し取られ、たちまちスラム街を彷徨うことに。やがてオスカーは偶然の出会いから警備員の仕事にありつき、親切な上司より仕事を仕込まれる。だがその上司の狙いは…。
貧困と暴力が支配する世界有数の犯罪都市マニラの恐るべき実態。

ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦 Anthropoid(2016)

ヒトラー、ヒムラーに次ぐナチス第三の男ラインハルト・ハイドリヒ暗殺作戦に命をかけた若き男達の戦いを描く

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