映画「スキャンダル」ネタバレ解説/ハリウッドがFOXを攻撃する理由とは…

“アイルランド警察官の気質で
世界は地獄 たるいバカばかり
少数派は犯罪者 性は楽しい
婆ちゃんが怖がり じいちゃんが怒るネタを”

それがFOXニュースよ

セクハラとの戦いがメインテーマな映画ではあるものの、映画の中では明らかにFOXニュースそのものをバッシングしていました

劇中のFOXニュース職員たちは、(主人公たちとその周りを除けば)ほとんどが醜い保身や社内政治ばかり…という描かれ方をしていました。

彼らに対して、仕事に欠ける情熱や、彼らなりの信条・正義感は一切描かれなかったほどです。

もちろんFOXニュースのことを「CEOロジェー・エイルズの影響力が強すぎる不健全な組織」として糾弾するのは理解できます。

でも、どうもこの映画はFOXニュースそのものが悪であると言わんばかりなんですよねぇ。

挙げ句の果てには、主人公の一人であるマーゴット・ロビーに社員証をゴミ箱に捨てさせるというFOXニュースに対する侮辱もののラストシーンで締めくくっています。

一企業に対してやりすぎじゃないか?と思わせないのがハリウッドの誘導の巧みさでしょうか。

実はこれらの背景には、ハリウッドとFOXニュースが対立する大きな背景があったのです。

FOXニュースの報道姿勢

FOXニュースはアメリカのニュース専門放送局です。

その名前の通り、一日中ニュースばかり(!)を放送するテレビ局なんですよ。

アメリカでは日本と違い、地上波よりケーブルテレビ放送のほうが主流。チャンネル数が多いので、こういったチャンネルごとの専門化が進みやすいという事情があります。

特筆すべきはその放送姿勢

アメリカは共和党と民主党の二大政党制と呼ばれていますが、FOXニュースは徹底して共和党の味方なのです。

共和党の政策には喜んで賛成を表明し、民主党の大統領には何度もバッシングを繰り返すのです。

日本の感覚では、特定の政党に肩入れする放送局なんて、「公平性に欠ける」と批判されてしまうところです。

しかしアメリカでは企業や個人が政治的な信条をオープンにするのは当然と考える土壌があります。

放送局ごとに、あからさまにどちらかの政党を応援してもOKなのです。

逆に共和党政権もFOXニュースを優遇しています。

トランプ元大統領は、既存メディアを「フェイクニュースだらけだ」として冷淡な態度をとり、報道各社を集めた記者会見を中止していました。

しかしFOXニュースだけにはホワイトハウス報道官が独自の会見を開かせていたりします。

映画の中で、トランプの暴言に怒るメーガンに対し、「彼(トランプ)はFOXニュースに必要だし、彼もFOXニュースを必要としている」と我慢を強要したのはこのあたりの事情があります。

トランプには彼に賛成するメディアが必要だし、
FOXニュースには視聴者が喜ぶコンテンツであるトランプが必要なのです。

それでは、FOXニュースが支持する共和党とはどのような政党なのでしょう?

共和党の特徴

まずは共和党はドナルド・トランプやブッシュの政党だと考えると、なんとなくイメージが掴めるでしょう。

・基本的に“古きよきアメリカ”をイメージ
・つまりは変革に反対する“保守派”
・小さな政府(税金は低く押さえる。減税)
・移民や黒人に厳しい
・銃所持賛成
・同性愛反対

また「愛国心」や「キリスト教」を重視するのも共和党の特徴です。

これらの方針から、支持層にはこんな特徴があります。

・年輩者に支持者が多い
・熱心なキリスト教信者に支持者が多い
・白人の労働者層に支持者が多い
・退役軍人に支持者が多い
・カントリーミュージックファンが多い(笑)

もう一方の民主党(オバマ、クリントン夫妻)はその真逆ですね

・基本的に「新しいアメリカ」を求める
・従来の思想に囚われない「リベラル」「革新」
・大きな政府(手厚い福祉政策)
・差別撤廃
・銃規制推進
・同性愛賛成

そして支持層はこんな感じです

・インテリ、知識人層に支持者が多い
・有色人種、移民、同性愛車、キリスト教意外の宗教の信者などマイノリティーに支持者が多い
・貧困層に支持者が多い
・映画業界に支持者が多い

そう!映画業界すなわちハリウッドは、民主党支持なんですね。

なぜかと言いますと、ハリウッドは大半がユダヤ系資本なんです。

大手映画会社役員の、なんと60%近くがユダヤ人なんですね。

そして、ユダヤ人はキリスト教徒に長年迫害されてきたマイノリティです。

キリスト教&白人至上主義の共和党なんて、応援する気にならないのも当然です。

ユダヤ教コミュニティは、圧倒的に民主党を支持しています。

もちろん、会社の役員が民主党推しだからといって、共和党を支持していけないわけではありません。

しかし、会社がどの映画を製作するか決めるとき、共和党思想の映画より、リベラル・革新的な映画のほうが好まれるでしょう。

その映画の役者を決めるときも、あまりにそのイメージに反する思想を持った人間は起用しにくいでしょう。

かくして、ハリウッドは民主党の牙城となっているのです。

なお、もちろんハリウッドにも共和党員はいます。
クリント・イーストウッドとか
シルベスター・スタローンとか
ブルース・ウィリスとか
アーノルド・シュワルツネッガーとか…
古き良きアメリカ感がすごい

さて、ハリウッドが民主党を推していることがわかりましたね。

さらにこれで、共和党の代表であるドナルド・トランプが映画の中で批判されていた理由も理解できたかと思います。

トランプは共和党の中でも、民主党に配慮したり妥協したりしない、かなり過激なタイプです。

人種差別発言や、マイノリティ批判もすごく、民主党支持者からは蛇蝎のごとく嫌われているのです。

よくよく考えれば、映画の本筋であるロジャーのセクハラ疑惑を論じるだけなら、トランプのクズエピソードは必須ではないんですよね…。

それにも関わらず、むしろ前半はトランプバッシングがメインだったくらいです。

もちろん自業自得というか、彼の発言も批判されるべきですが、本題がロジャーの映画なのにトランプ本人は流れ弾を食らったような気分でしょう(笑)

ハリウッドが応援するのは民主党FOXニュースが応援するのは共和党

これだけでなぜハリウッドがFOXニュースを攻撃するか理解できたと思いますが、さらにもう少し補足したいと思います。

数ある共和党支持メディアの中で、なぜFOXニュースだけを狙い撃ったのでしょうか?

それは、FOXニュースが共和党支持メディアの中で唯一無二の存在だからです。

メディアごとの支持政党

新聞やテレビ局のメディアごとに、ある程度支持する政党があることは先程述べました。

主要メディア(新聞・テレビ局)の傾向をざっくり一覧にするとこんな感じです。

 

民主党陣営
CNN
CBS
ABC
NBC
NY・タイムス
ワシントン・ポスト

共和党陣営
FOXニュース
ブライトバート(右翼系ネットニュース)

なんという孤立無援…!Σ(゚■゚;≡

実は、全国紙の新聞や報道局は、FOXニュースを除いて民主党寄りの意見ばかりなのです。

よくよく考えれば、新聞記者、テレビ局職員などメディアを制作している人間にはインテリ層が多いのですから、当然といえば当然ですね…。

共和党政権がFOXニュースを優遇したくなる気持ちもわかります。

そんなわけで共和党支持者が選ぶメディアは必然的にFOXニュース一択になります。

共和党といえばFOX、FOXといえば共和党。

マーゴット・ロビー演じる若きアナウンサー・ケイラの「FOXニュースじゃなきゃだめなの!祖父母は週末はかならずFOXニュースを観ているのよ!」というセリフは非常に的を得ているのです。

もちろんこれにはハリウッドからの共和党支持者への皮肉(ひとつの情報ソースを盲信し、価値観の変革を認めない頑固な老人)も含まれているのですが…。

それにしてもあのシーンを含め、ケイラを愚かに描くことによって共和党&FOXニュースを攻撃しているように思えます。

映画前半の彼女の振るまいとても知的には思えません。

自分の主義主張でなく「お婆ちゃんがみてるから」という理由でFOXを選んだところだとか、

同性愛者なくせに共和党(同性愛反対)を応援していたり。

そのくせ、FOXニュースの社員証をゴミ箱に捨てるラストシーンでは、妙に理知的でクールに描かれています。

そしてそんな彼女は、(ハリウッドの映画人で構成される)アカデミー賞において、助演女優賞にノミネートされました。

いかにハリウッドが共和党・FOXが嫌いか、垣間見えますね…。

さて、ここでひとつ疑問が浮かびます。

共和党寄りの主要メディアがFOXニュースだけだとしたら、共和党はどうやって二大政党を維持しているのでしょう?

実はアメリカのメディア事情、もっと言えばアメリカの新聞事情にその原因があるのです。

日本では、新聞といえば読売新聞や朝日新聞が有名ですね。

全盛期より発行部数を落としていると話題にあがりますが、未だに読売700万部、朝日500万部を誇っています。

一方、世界的に有名なアメリカの新聞であるニューヨークタイムズは48万部、ワシントンポストは25万部にすぎません。

日本より多くの国民を抱えているアメリカでたったこれだけの部数!アメリカでは新聞を読む習慣がないのでしょうか?

そうではありません。
アメリカには日本と異なり、「全国紙」と「地方紙」の住み分けという事情があるのです。

「全国紙」はその名の通り、アメリカ全国どこでも手にはいるような新聞です。

日本でも名前を聞くような「ウォールストリートジャーナル」、「ニューヨークタイムズ」、「ワシントンポスト」などがそれに当たります。

もう一方の「地方紙」は、その地方でしか売ってないような地元紙です。

日本でたとえるなら「北海道新聞」や「琉球日報」をイメージすると近いのですが、もっともっとローカル寄りです

郷土愛が強く、お悔やみ欄、赤ちゃんの出生欄、郷土のヒーローの記事、地元高校の部活動の活躍、地元のスポーツチームの勝敗、地元の○○さんが表彰…もう、地元情報がすごい。

アメリカで「全国紙」と「地方紙」どちらが選ばれるかというと、これが圧倒的に「地方紙」優勢なのです。

というか、「全国紙」を購読している人はだいたい地元の地方紙も購読しています。

「全国紙」は“意識が高い層の併読紙”という意味合いが強いのです。(日本経済新聞の立ち位置をイメージしてみると分かりやすいかもしれません)

そう、「全国紙」は一部のインテリ層が作っている、一部のインテリ層向けのメディアなのです。

もっと言えば、アメリカ人の大半は「ニューヨークタイムズ」、「ワシントンポスト」なんて読んでないのです!!

こういった「全国紙を読まない層」の多くは、地元を愛し、変わらない生活を愛し、熱心にキリスト教を信仰します。

そう、全国紙を読まない彼らこそが、共和党の支持母体なんです。

余談ですが、日本に入ってくるアメリカ発の新聞記事は、たいてい「ニューヨークタイムズ」、「ワシントンポスト」といったインテリ向け全国紙。「地元の○○さんが表彰されました」「○○高校聖歌隊コンサート今年も盛況」なんて地方紙が翻訳されて入ってくることはまずありません。

だから日本人は「アメリカの新聞はほとんどが反トランプなのに、どうして選挙で勝てるんだろう??」と不思議に思うのですね。

つまり、乱暴に単純化するとこういうことです。

全国紙、CNN、CBS、ABC、NBC =民主党支持

地方紙、FOX =共和党支持

いくらハリウッドが共和党を嫌いとしても、各州の小さな地方紙(他の州では全く無名)を攻撃してもピンときません。

ハリウッドにとって、唯一FOXニュースだけが、非常に攻撃しやすい共和党支持メディアなのです。

もちろん、FOXニュースのセクハラスキャンダルは糾弾されるべきことですし、トランプ元大統領の女性蔑視・差別発言も同様です。

しかしこの映画が反共和党・反FOXニュース勢力によって作られたという事情は、頭の片隅に置いておくといいかもしれません。

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