パペットアニメーションの魅力と北欧の文化・死生観/ムーミン谷の彗星

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北欧の風土や気質、死生観が垣間見える興味深い作品でした!映画を観た子供の反応、ネタバレ感想などです。

あらすじ

ある日、ムーミン谷に住むムーミン一家の元にジャコウネズミがやって来て、「彗星がきて、この世は滅びる」と言い出す。彗星のことが気になったムーミンは、友だちのスニフ、ミーと共に「おさびし山」の天文台へと向かう。「あと4日で彗星が地球に衝突する」とのニュースを得たムーミンは、道中出会ったスナフキン、フローレンらと共にムーミン谷を目指す。

yahoo映画より

予告編

実は子供たちのリクエストで一緒に観てみたんですが、この映画、案外掘り出し物だったかもしれません。

とにかくパペットアニメーションの映像がすごく雰囲気がいい!ひとつひとつの場面が絵本の1ページのようなセンスの良さに溢れていて、惚れ惚れしました。

「パペットアニメーション」ってご存じですか?
僕も初めて観たんですが、人形劇ともアニメともまた違う、独特の暖かみを持っていますね。
それもそのはず、この映画は人形を一コマ一コマを写真撮影して、それを連続再生することで、まるで動いているように見せているのです。

いわゆるストップモーションアニメと呼ばれるジャンルのひとつですね。
ストップモーションアニメには、代表的なものに「ウォレスとグルミット」がありますね。これは粘土の人形をちょっとずつ動かして撮影するので「クレイアニメ」と呼ばれていますが、「ムーミン谷の彗星」ではぬいぐるみ(=パペット)をちょっとずつ動かしているので、パペットアニメーションと呼ばれています。

その魅力は、やっぱりぬいぐるみの持つ優しい質感、手作り感の良さ。どこかぎこちない動き方もレトロっぽくていいですねー。

ムーミンと言えばこっち↓を想像する方が多いかと思いますが、ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンさんはこのパペットアニメーションで作られたムーミンをいたく気に入っていたそうで、「今まで映像化されたものの中で一番好きだ」とまで言っていました。

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実はずいぶん昔に作られた作品。

元々この作品は、1978年にトーベ・ヤンソンさん本人の監修の下で作られたパペットアニメのテレビシリーズなんです。(日本でもNHK衛星放送なんかで時折再放送していました)
それを2010年に再編集してカンヌ国際映画祭に出展されました。
30年以上も前の子供向け作品が、現代の映画祭で通用するって素晴らしいですね!

再編集に当たって、テーマ曲には北欧の誇る歌姫ビョークが(本人が熱烈なムーミンファンだと知られています)起用されています。
彼女の歌がもつミステリアスな雰囲気と、意外にかわいい声色が、「ムーミン」の雰囲気に驚くほどマッチしていました(笑)

声優陣もムーミン役にアレクサンダー・スカルスガルド(「メイジーの瞳」のバーテンダー役など)、スニフ役にマッツ・ミケルセン(「007 カジノロワイヤル」の悪役や、テレビドラマ「ハンニバル」)など北欧出身のハリウッドスターが起用されています。豪華!

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なお一部にはネットニュースでは「ムーミンが最新3Dアニメになってカンヌに登場!!!」なんて書き方してあります。
いや、たしかに立体の人形だけどさ…(笑)

その後、長いこと日本では公開されず、2015年にようやく登場したわけです。なので表記上は2015年公開の映画になってるわけですね

絵本のような映像の魅力

この映画の魅力は、さながら絵本の1ページのような美しい映像にあります。
背景の雰囲気がどこも素敵で、北欧のセンスの良さが垣間見えますね。

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スクリーンショット 2017-03-09 22.03.01元々は子供向けの作品なのに、洞窟の中の不気味さ、森の中の葉っぱのうねり方、色合いといった細かいところで手を抜いていません。

また、フェルトで作られたムーミンたちのやさしい質感はCGでは絶対に出せない良さがありますね。
あえて現代の映画祭に復活させた理由も、CGだらけになっている中、昔ながらの技術を見直そうという理由もありそうです。

子供たちの反応

うちの子供たち(4歳、3歳、0歳)と一緒に観てみたのですが、やはり子供向けに作ってあるだけあって、最後まで楽しく観ることができましたよ!

川で襲ってきたタコに怯えたり…

洞窟で襲ってきたトカゲに怯えたり…

迫りくる彗星にガチで怯えていたり…

…って、怯えてばっかりだな!Σ( ̄■ ̄;

でもこのムーミン、どこか不気味な雰囲気もあるんですよねー。
彗星の衝突のくだりとか、ギリギリまで本当に世界の終わりっぽかったですし…。ほのぼのしてるようですごいダーク…。
特に4歳のお兄ちゃん(←こわがり)は大人にしがみつき、終始不安そうな顔をしていました(笑)
それでも最後まで観ちゃうのが、子供らしくてかわいかったです(^^)

それと意外だったのが、「いかだ」とか「おみせ」とか「望遠鏡」とか「赤い宝石」とか、わりとどうでもいい部分を結構楽しんでいた点ですね。

僕らからすると「あの洞窟のくだりはなんだったの…?」「お店のシーン必要かな…」って思いがちですが、子供たちにとっては心に残る大好きなシーンなんですね。

まだ4歳、3歳だから、ストーリーの流れや登場人物の心境より、そういった楽しそうな要素のほうが心に残りやすいのでしょうか…。
うーむ、狙ってやったのか偶然なのか。どちらにしろこの映画は、意外なほど子供たちを引きつける不思議な磁力があるようです…。

なお、翌朝、4歳のおにいちゃんが真剣な顔で

「ぼくね、すいせいのゆめみたんだ。すごくこわかった…」

と教えてくれました。

か、かわいい…!(*´Д`)ハァハァ

北欧の不思議な死生観

この「ムーミン谷の彗星」は大人が観ると、何ともシュールで不気味な雰囲気が漂います。その象徴はなんといっても「彗星」です。

映画の冒頭で、ジャコウネズミさんから「彗星が地球に衝突し、世界は滅亡を迎える」という恐ろしい情報がもたらされます。半信半疑ながらムーミンたちは天文台に行き真偽を確かめるわけですが、そこで伝えられた結果は「4日と4時間と44分後に地球と衝突する」という衝撃的な事実でした。

この辺になると、彗星はおどろおどろしい姿を次第に大きくし、じわじわと近づいてきます。

そこからの展開が、どうも僕には理解できないのですが、ムーミンたちがしたことはテクテク家に帰ることでした。

「ママがケーキを焼いて待ってるって言ってたし…」

いやそれどころじゃないだろ!Σ( ̄■ ̄;

「パパならきっと何とかしてくれるよ」

無理だよ!!Σ( ̄■ ̄;

劇中では、スニフが腰抜けのような扱いで描かれていましたが、こと彗星に関しては他のキャラクターたちがのん気すぎるような…。もっとパニックに陥るとか、暴動が起こるとか、ラブストーリーが展開するとか、採掘屋が宇宙船に乗って彗星爆破するとか、なんかあるだろ!

どうも、ムーミンたちの「世界の終わり」や「死」に対する感覚は、僕たちのそれと微妙に異なるような気がするのです。

彗星のような逃げられない世界の終わりを「そういうものか」と受け止めているのでしょうか、理不尽な死にパニックに陥る様子もありません。
もちろん死ぬのは恐れているのですが、不思議な落ち着きを感じるのです。

僕はこの感覚を、北欧特有の死生観ではないかと睨んでいます。

ムーミンが生まれた北欧の風土の特徴といえば、長い冬、雪に閉ざされた世界です。(そういえばムーミン自体も長い冬を眠って過ごすという設定ですね)

現在ではともかく、近代化が進む以前の北欧で、冬の森で道に迷ったりしたら?
そこには逃れることができない「死」が待っています。
どれだけ強い人間であろうと、昨日まで元気な人間であろうと、圧倒的な寒さと雪の中では生きていくことができません。
彼らにとって死とはそもそも「理不尽」で「突然」なものなんだと思います。ある日突然理不尽にやってきて、一度掴まれたら抗いようがない…。そんな「諦観」とも「達観」とも言える意識が、北欧の人のDNAに刻み込まれているのではないでしょうか?

※なお、北欧では自殺率が高いとか、鬱病の割合が高いとかいう噂を聞いたことはありますが、真偽が非常に怪しい話なので、今回はそれを関連づけようとは思いません。

そしてもうひとつ。寒さという「死」に対抗できる唯一の手段は「家」なんです。

寒さをしのぎ、暖かさを提供してくれ、「死」の恐怖を追い払ってくれる。北欧の人々は他の地方の人よりずっと、「家」を大切なものに感じていたことでしょう。

この映画でも、テレビでやってたセルアニメのムーミンでも、ムーミン一家は本当に家族と我が家を大切にしていました。そういえば「家」にあれだけこだわる作品は他に観たことがありませんね…。
北欧の人々にとって、「家」は心の安らぎであり、平穏と幸せの象徴なのでしょう。

だからこそムーミンたちはこの世の終わりが近づいてきたとき、「家に帰ろう」と思ったのかもしれません。

そう思うと「ママがケーキを焼いて待ってるって言ってたし」「パパならきっと何とかしてくれるよ」といったセリフも、なんだか自然に受け止められる気がしてきます。

…もしかしたら、この「家」への信頼観と敬意が、世界的に評価されている北欧家具を育てたのかもしれませんね。
大好きな「家」だからこそ、家具の品質や見た目にもこだわりぬく姿勢が根付いたのかもしれません。

かわいらしい映像も楽しめるし、北欧の文化を垣間見える興味深い映画だったと思います!
子供たちも楽しんでくれてよかったです(^^*)
一度観てみてはいかがでしょう?不思議な魅力がありますよ…

おまけ↓

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