映画「裏切りのサーカス」 カーラの謎と伏線をネタバレ解説

裏切りのサーカス

007に代表されるような華やかなスパイ映画でなく、実際のスパイ機関の攻防を描いた、しっとりどっしりとした大人な映画。
スパイ組織に入り込んだ裏切り者「二重スパイ」を探すというストーリーですが、この映画の魅力は、犯人捜しじゃないんです。それは、名優達の渋い演技対決!!無表情の下に隠された感情の攻防戦がたまりません!

あらすじ

東西冷戦下の1980年代、英国諜報(ちょうほう)部「サーカス」を引退したスパイ、スマイリー(ゲイリー・オールドマン)に新たな指令が下る。それは20年にわたってサーカスの中枢に潜り込んでいる二重スパイを捜し出し、始末するというものだった。膨大な記録や関係者の証言を基に、容疑者を洗い出していくスマイリーがたどり着いた裏切者の正体とは……。

yahoo映画より

予告編

68点

この映画の原作者、ガチでスパイ機関の出身だったんですね。イギリスの秘密情報部(Secret Intelligence Service)、MI6に所属していたそうです。そりゃ描写がリアルなわけですわ。アクションシーンもないし、秘密道具も出てこない。映画らしいスパイっぽさは全然無いかわりに、リアリティがすごかったもんな。

この映画、2回目を観ることが推奨されていますが、案外「なるほど~」って伏線は少ない気がします。それよりも、主人公と、裏切り者の演技をじっと観てください。出てくる男達は基本的に感情が表に出てきません。引退したおじいちゃんはすぐにぷりぷり怒ってたけど。それでも、そのわずかに滲み出てくる感情ってのがとっても味があって素敵です。。クリントイーストウッドの無表情を思ってもらえばわかるかな。
そして2回目に観るとなお趣があるのです。「この時の表情はこういう意味があったのか!!」「この時にはもう気づいてたの?気づいててなおこんな態度とってたの!?」と名優の奥行きある演技にもう夢中。それこそが「大人な映画」と評される由縁です。

あと、初見では説明不足なところがあって、たぶん理解できないので、ひとつだけ物語を損なわない程度に解説しておきます。
時折名前が出てくる『カーラ』という人物です。これはシンプルに言えば敵国ソ連のスパイ組織の親玉です。主人公の所属するスパイ組織『サーカス』の宿敵で、ダースベイダーです。それだけは憶えて映画を観て下さいね。

以下ネタバレ感想、伏線紹介です

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正直言って、謎解き映画ではなかったですね(笑)
だって、ヒント全然無いし、何で主人公が彼が「もぐら」だと気づいたのかもイマイチよくわかんないもん…。2回目観てもわかんなかったもん…。

それよりも、2回目は主人公(ゲイリー・オールドマン)と裏切り者(コリン・ファース)の表情観てるだけで楽しかった!2人ともお互い無表情&友好的な笑顔で話してたんだけど、真実を知ってしまうとすごく緊迫感あるシーンに感じるから不思議ですね。2人とも実力ある役者だからな~。またコリン・ファースが普段は魅力的で仕事も出来る男でさぁ。だからこそ怪しいとも言えるんだけど、ホント人間不信になりそうです。

特に、2回目を観るときは以下のシーンに注目してほしいです。

冒頭シーンの魅力

主人公が家に帰ってくるシーン、奥さんあての郵便物を取り出し、置いておきます。一度映画を観てないと何気ないシーン過ぎてわからないですよね。でも奥さんが男を作って家出しているのだとわかると、何とも悲しいシーンですよ…。しかもあれ、原作読まないとわからないけど、女が男と遊んだぶんのクレジットカードの請求書らしいですよ。
…きっついわー。想像するだけできっついわー。

その後、飾られた絵をみつめる主人公。

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この絵を送ったのが誰か憶えてますか?映画の終盤で登場しましたね。コリン・ファースが家にいたときに持ってきてた絵なんですよ。

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同僚に妻を寝取られた証拠品ですよ…!

それが飾ってあるってことは、主人公は気づいていないふりをし続けている。彼は本当に妻を失いたくないんですね…。

そう思うと、ドアに木片を挟んでいたシーンも違った見方が出来てきます。スパイ組織にいるから用心しているのかと思っていたけれど、それだけじゃない。あれが挟まっていないのは妻が帰って来ていない証拠でもあるんです。

そう考えると、木片が外れてるときの彼の心境ってどんな感じなんでしょうね。不安と期待でぐちゃぐちゃになりそうです。

『カーラ』と『ウィッチクラフト作戦』

この辺がややこしすぎるから、2回目を観ないとわからないんですよね。僕が評価を下げたのもそれが理由です。

『カーラ』はロシアのスパイ組織の親玉で、『ウィッチクラフト作戦』はカーラの仕組んだ罠。その事実を知ると、2周目は色々見えてきます。逆に言えばそれを知らないと1周目は楽しみきれないのは欠点でしょ。

序盤、コントロールのじいちゃんの部屋にはチェスの黒の駒に5人の顔写真を貼ってありましたが、白のキングに『カーラ』と書いたメモを貼ってました。

karla

これは「カーラとは敵勢力の親玉である」という観客へのメッセージですね。はい。これだけでわかるかー!щ(`Д´щ)

ウィッチクラフト作戦の情報を元に新たなチーフの就任したパーシーは、ロシア側に見事に騙されていた小物なんですね。2回目に観ると、自信満々にウィッチクラフト作戦に邁進していく新サーカスが愚かで仕方ないです…。完全にカーラの手の平の上やないか…。

とにかく2回目はカーラの存在感がすごいです。
1回目に観たときは名前だけの存在だったのに。サーカスを手玉に取り、もぐらを仕込み、そしてスマイリーの弱点が妻があることを見抜いていた。以前スマイリーに西側に寝返るよう説得されたときに、気づいたのですね。

「彼は一言も喋らず黙っていた」

「弱点は妻だ」

たったこれだけのエピソードで、カーラという男の凄みを表現しています。

最後の射殺シーン

自分が捕まって拷問を受けた復讐にも思えますし、相手が拷問を受けないような優しさの表れとも思えます。ジム・ブリドーにとってヘイドン(コリン・ファース)は親友であり、同性愛者として愛する相手であり、組織を裏切り自分を拷問に追い込んだ憎むべき相手だった…。

目の下を撃たれたヘイドンは、まるで涙のように一筋の血を流し、ブリドーも一筋の涙を流します。

うわああああ!せつないよおおおお!・゚・(*ノД`)・゚・。

原作では、ジム・ブリドーはロシアから解放されるときに「ヘイドンがモグラだとばれたら殺せ」という交換条件をつけられたそうです。映画観ててわかるかよ! だからこそ射殺したとも言えるけれど、絶対それだけじゃないと思います。複雑な思いが凝縮されたいいシーンでした。

スパイって哀しい存在ですね。誰かを裏切り、裏切られる日々の中で暮らしていたら、誰も信じられなくなってしまいそうです。

序盤、コントロールとスマイリーがサーカスを追われるシーン、2人は一言も言葉を交わしません。コントロールは、忠実な右腕であったスマイリーですら信じられなかったんです。

そんな中、彼らが何を信じていたのか?
切なくて味のある映画でした。

「裏切りのサーカス」続編情報/あらすじ とうとうカーラとの決戦!?
「裏切りのサーカス」で主役の『スマイリー』を演じたゲイリー・オールドマンは、主演男優賞にノミネートされた2011年のアカデミー賞のアフターパ...

 原作を是非読んで下さい。映画よりさらに掘り下げてて深みがあります。

日本での代表的なスパイ小説。短編でとても読みやすい。面白い。

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