どう評価していい物か…。名作の香りもするけれど、どうも手放しで褒められないと感じてしまいました。
僕がこの映画を心の底から認められないのはなぜなんだろう?
そしてこの映画にどこか惹かれて止まないのはなぜなんだろう?
あらすじ
老人トマは失望とともに自分の生涯を振り返っていた。
火事の中、隣の裕福な子供と取り違えられたという思いこみ、家族との愛のある生活、大好きな姉とのちょっと官能的な触れあい…。
予告編(あんまり映画の紹介してない困った予告編です…)
63点
この『トト・ザ・ヒーロー』は要するにおじいちゃんの回想シーンで構成された映画です。でも困ったことに、このおじいちゃん妄想癖がある上に、ちょっとボケてる気がするんですよね…。
つまり、これは本当にあったことの回想なのか、妄想が入っちゃってるのかイマイチよくわからんのです。
たとえば彼は「産まれた時に隣の赤ちゃんと取り違えられた」ことをずっと恨んでるのですが、根拠はその時の記憶があるから。いや、憶えてないでしょ普通!Σ( ̄■ ̄;
彼は“自分の人生に何一ついいことが起こらなかった”のは、取り違えられたもう一人の少年アルフレッドのせいだと恨んでいます。そしてとうとう、彼は自分の人生を取り戻そうとアルフレッドの殺害を決意します。八つ当たり過ぎるだろ。
そうしてジジイは復讐を心に誓い、汚くて冷たい老人ホームでぶつぶつと文句を垂れ続けるのですが、回想の中の少年時代はとっても美しく、愛が溢れています。
家族との愛のある暮らし、そして最愛の姉との触れあい…
そう、姉なんです。この映画の核は姉のアリスなんです。
映画のポスターやDVDの表紙を観てもらえれば、分かるかと思います。
サンドリーヌ・ブランクという当時11歳くらいの女の子で、スッキリした顔立ちとすらりと細長い手足、ふわふわクシャクシャな栗色の髪が可愛らしい女の子です。でも、時折びっくりするくらい濃密でおとなっぽい表情をするんですよね。
この姉との距離感が悩ましくてとってもドキドキするのです。
ていうか僕は姉がいないんですが、お姉ちゃんってこんな絶妙に官能的なスキンシップしてくるもんなの?フランス人だから!?一線を越えようとしてるのか、無意識なのか、からかってるだけなのか…。
そして、やたらサービスショットが多いんですよね。
お風呂に入りながら上目遣いで脚で触ってくるシーンは子供離れしているし、湯船から立ち上がって主人公に「タオルをとって。」というシーンとかすっごい官能的でした。まあ後ろ姿だから…背中だけだから…ぎりぎりセーフかなと思ってたら次のカットでしっかり前から映してるし。しかも別に映す必要ないタイミングですよ。いやほんと、この子11歳ですよね?いいの?
つくづくフランス人ってエロい凄いと思う。
まぁ、サービスショットは置いておき、お互いに愛し合っていると感じ、主人公は次第に姉に心惹かれていきます。でも、お姉さんは…。
ああ!続きは映画を観て下さい!以下はネタバレの感想になります!
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以下ネタバレ↓
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大人になった主人公は、まるでアリスが成長したかのような女性を街でみつけ、次第にお互いに惹かれあいます。相手はご主人がいるのにね!さすが「浮気は文化」のフランス人です。
それにしても「相手は旦那さんがいる」ってのが絶妙にリアリティを感じさせていいですよね…。
もしも『まるでアリスに生き写しの美人がいて、その人は恋人もいなくて、次第にお互いに惹かれあい…』って言うストーリーだったら「随分ご都合主義のストーリーですな(゚Д゚)y-~~」ってなるところですよ。
でもこれが旦那持ちだとなぜか納得できちゃう不思議。
どこの国でも、隣の芝は青いし、いい女には男がいるんですね…。
なぜトマはエブリーヌを捨てたのか
しかし彼女の旦那がアルフレッドだと知った彼は、失意の中彼女を捨てます。
最初、ここのシーンがイマイチ納得できなかったんですよね。
別に知り合いの女だったからと言って捨てること無いと思うんです。そいつと仲がいいわけでないし、むしろ嫌いな奴なのだし。彼女が彼より自分を選んでくれたのなら、気にしないでいいと思うんです。
でも2回目に観たときふと気づいたんです。
アルフレッドは自宅にエブリーヌの写真を飾っていました。まるでアリスに生き写しだったエブリーヌ。
でも一枚の写真がアップになります。
髪はさらりとしたストレートでパーマはかかっていないし、あのレモンイエローのワンピースだって着ていません。
そう、エブリーヌは最初からアリスに似ていたわけではなかったんです。アルフレッドもエブリーヌにアリスの面影を見出し、そして服装も、髪型も、アリスそっくりに変えていったのです。
青年トマは気づいたのでしょう。自分もアルフレッドと同じだと。自分がエブリーヌを求めていたのは結局アリスの代わりだと言うことに。そしてそれがいかに彼女の尊厳を無視する行為かということに…。
そっか…。だからトマは彼女から去っていったんですね。自分には彼女の側にいる資格がないと思ったから…。
アルフレッドとトマ、もうひとつの人生
そして回想が終わり、彼はアルフレッドへの復讐を決行します。しかし老いたアルフレッドを目にした途端、彼は復讐をやめてしまいました。
アルフレッドは彼を家に招き、自分がずっとトマを羨ましかったと告げました。そして、エブリーヌがずっとトマを愛していることも。
このシーン、びっくりしました。
アルフレッドはエブリーヌとトマが浮気していたことを知っていたのですね。おそらくエブリーヌ本人から聞いたのでしょう。それに彼なら『アリスに似ていたから』という動機を誰よりも理解できるはずです。
その上で彼は、トマを恨むことなく、友情を示したのです。アリスを失った男同士の共感めいたなにかを感じたのでしょうか。
考えてみれば、同じ日に生まれた少年であり、赤ん坊の時にすり替えられたと妄想するアルフレッドは彼のもう一つの人生にも思えます。同じ女性を愛し、同じ女性を失い、そして彼女のことを忘れられない2人…。
それはラストシーン、魂となったトマが空からアルフレッドを眺めるシーンにも象徴されています。「女房からとめられている」タバコを植木鉢の下からこっそり取り出すアルフレッド。それは冒頭の老人ホームでこっそりタバコを吸うトマとダブって見えます。
言うなればアルフレッドはもう一人の自分だったのです。
二人を比較すると、なんだか複雑な気持ちになります。
アリスとこっそりデートをして、エブリーヌとも結婚でき、経済的にも成功していたリア充っぷりだけ見れば、アルフレッドの方がトマより断然幸せに見えます。
でも彼は「トマが羨ましい」って言うんですよね…。
そういえば、アリスも、エブリーヌも、結局は彼よりトマを選んだもんなぁ…。アリスが「トマの方が好き」と彼に告げたかはわかりません。でも、告げなくても気づいちゃうよね。羨ましいよね…。
そして、これは僕の妄想ですが、アリスは口止めのためにアルフレッドとデートをして花を贈ったのかもしれません。だとしたら、それに気づいていたとしたら…アルフレッドの満たされなさも理解できます。
ただ、トマは本当にこれで幸せなのでしょうか?
なぜ名作と言い切れないのか
僕が結局この映画を「名作だ」と言い切れないのは、トマの境遇があまりにも惨めだからです。
冒頭の「なにひとつ起こらなかった」と人生に失望していた心境と比べれば、アルフレッドの羨望を知り、エブリーヌが「ずっと愛していた」と言ってくれたことでさぞ救われたことでしょう。でも、それだけだと思うんです。
エブリーヌには旦那がいて、アルフレッドにも妻がいて、トマだけが一人で過ごしています。たとえ心を救われたところで、僕にはこれで幸せとは到底思えないんです…。
おそらく、僕自身の境遇もあるかと思います。僕は今3人の子供が産まれたばかりで、正直なところ、自分は世界で一番幸せだと感じています。大好きな人と愛し合うこと、家族を築いていくことがあまりにも幸せで、だからトマが心を救われたところで、「よかったよかった」なんて気分にはなれないんです…。
最後にトマはアルフレッドを救うために犠牲になります。この行為で彼はヒーローになりました。彼の哀しい人生を精一杯かっこよく彩るなら、こうするしかなかったのかなぁ…。これで彼の魂は解放されるのかなぁ…。
テーマ曲の「ブン♪」という楽しげなリズムのせいで、僕にはこのラストは余計に哀しく響きます。
やっぱり僕には、ハッピーエンドには思えないんです。
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余談ですが、アリスにからかわれるトマの様子には妙に心を動かされました。
無邪気で幼さを残した上目遣いだとか、無防備なのか誘惑してるのかわからない距離感の近さとか、年上なとことか、ドキドキする思い出とか、そして結局去っていったとことか。
随分具体的でしょ。
そう、きっと昔好きだったあの子の想い出に重ねているんです(苦笑)
まだ憶えてるなんて馬鹿だよなーって思うし、男なんて、僕もトマもそう変わらないんだなぁとも思いました。
だからこそ、トマには新しい一歩を踏み出して欲しかった寂しさもあるんですけど、ね。
フランス人はエロいと確信したのはこの作品から。切なくておすすめ。
中学生の頃に読んだなあ、懐かしい。