「アデライン、百年目の恋」ネタバレ感想/こんなおとぎ話が邦画にない理由

aderain
まるでディズニーのプリンセス映画のような印象を抱きました。軽やかで、華麗で、幸せに満ちた雰囲気のせいでしょうか。大人が本気で作った、おとぎ話ですね。
この映画の魅力の秘密と、ハリウッドと邦画の違いを語ってみたいと思います。

「おとぎ話」のような「少女マンガ」のような

過酷な運命な割に苦悩の色は薄く、むしろ恋のドキドキが華やかな映画でした(笑)
また、よくよく思い返してみると、そこかしこに「ディズニー的」あるいは「プリンセス的」な描写がみられました。

冒頭に入ったナレーションも、少し堅苦しくはありますが、どこかおとぎ話の導入のようでしたね。
もちろん「普段と見違えるような綺麗なドレスでパーティーへでかけ」、「そこで素敵な男性と出会う」なんて、まさに!プリンセス!ですよね。べったべたです(笑)

他にも、アデラインと愛犬の関わりもポイントだと思います。
僕の思い過ごしかもしれませんが、「愛犬に人間の言葉で話しかける」って、プリンセス映画のお約束みたいなところありませんか?
まぁ、単に女性の「かわいいアピール」として定番の手段なだけかもしれませんが。
(僕の経験上、二人で歩いているときに犬猫に話しかける女性は、脈ありです(`・ω・´))

ちなみに、恋人のエリス君の前では、愛犬に話しかけるシーンはでてきません。
いい判断ですね。女性同士はこの辺敏感ですから、男性の前であまりあざとくアピールすると反感をもたれかねません。
男性の前でかわいさをアピールするのでなく、観客にこそ「この女性はかわいいね」と理解してもらうことが重要ですから。

また、デートスポットのチョイスにも巧さを感じました。

坑道の中の船の残骸、作りかけの自宅、そして室内青空映画館という謎施設。
恋愛映画のお約束、「ちょっと風変わりなデート」ってやつです。
銀幕の中の恋人候補が、ただのデートってわけにはいきません。
スクリーンの向こうの女性達に、非日常を感じさせてドキドキさせる、「この人は他の人とは違う」と特別感を持たせることが大切ですから(笑)

(例)

  • お弁当を作って、あえて公園でくつろぐだけ
  • 俺だけが知ってるこの街を眺められる丘
  • 本屋
  • 閉園したあとのテーマパーク
  • 開館時間の過ぎたスケートリンク

このご時世、「ちょっと風変わりなデート」も消費し尽くされた感はありますが、いやはやさすが、しっかり今までにないデートスポットを用意していました。探せばまだまだあるもんですね。

どれもセットをつくるのに費用がかかったでしょうが、そこはハリウッド。潤沢な予算で素晴らしいセットを組んでくれました。

…それにしても、わずかなデートの中で次々と自分を売り込んでいくエリス君は見事でしたね。

  • 「自分で作ったアルゴリズムが経済予測に使えて」(知性をアピール!)
  • 「会社が大きくなったから売却して」(経済力をアピール!)
  • 「今は歴史保存会の理事とかしてて」(社会貢献と優しさをアピール!)
  • 「でも世界を変えるのって難しい」(理想の高さと謙虚さをアピール!)
  • 「あと、部屋は作りかけだけど自分でやりたいから」(ワイルドさと実行力をアピール!)

わずかなデートの中でこれだけのアピールをこなすとは…。やるなこの男…。
彼を魅力的にみせるよう、脚本も相当練り込まれていたのだと感じさせます。

個人的には、スベリ上等でジョークを繰り出す体当たりな感じが好きです。気取ってなくていいですね。

可愛らしいとアデラインと、理想的な王子様。
二人は順調に、王道に、プリンセスストーリーを突き進んでいくのです。

シンプルなおとぎ話だからこそいい

この映画の魅力は、シンプルさにあります。

難しいテーマや問題提起ではなく、アデラインの恋の行方にだけ焦点を絞った、大人のおとぎ話です。

アデラインはエリスに心惹かれながらも、「年を取らない」という呪いのような運命の前に、自ら身を引いてしまいました。
ところが、周囲の人間は彼女に「愛する人を見つけて」「逃げないで」と懇願するのです。

さらには

「あなたには人を愛することが必要よ!」
「勇気を出して!」
「愛さえあれば大丈夫!!」

スゴい言い切りっぷり
いやいや、心配すべきこといっぱいあると思うんですけど!?
SF的にも、生活的にも!男と女なんて結婚してからの方が苦労が多くてだな

それなのにこの映画は一貫して「愛さえあれば大丈夫(キラキラ)」とシンプルな答えを提示し続けます。
なんと楽観的な…。

でも、こういうシンプルなまとめ方って嫌いじゃないです。

たとえば「結婚」という難題ひとつとっても、どだい、すべての問題や不安に答えを出すなんて無理なんです。
いくら事前に考え抜いても、思いもよらないトラブルに見舞われるし、考えもしなかった理由で喧嘩します(しました)。

すべての不安を解消しないと前に進まないのは、いつまでたっても踏み切れません。
どこかで、「愛さえあれば大丈夫。二人がお互いを思いやって乗り越えればいいんだから」という思い切りが必要なんです。

素敵な女の子と、王子様。
愛し合う二人が結ばれれば、それでめでたしめでたし。
二人の愛のパワーを信じた楽観的思考、これこそまさにおとぎ話ではないでしょうか。
女の子がディズニー映画に求めるような、夢のある物語なのです。

つまり、「年を取らない」という深みのあるテーマに関わらず、「この映画のテーマは恋愛!おとぎ話!」と思い切った割り切りをみせてくれたのが、好評価に繋がったのです。
いろいろな問題に手を広げて、ごちゃごちゃ考えてもやもやを残して終わるより、いい判断だったと思います。

ハリウッドと邦画の違い

そしてこれは、逆に言ってみれば、「これだけシンプルでも観客を魅了できる」というハリウッドの自信の現れでもあります。

彼らの自信の源は、アデラインを演じたブレイク・ライヴリーの華やかさだったり、彼女の知性と純情さを両立させた演技力かもしれません。(いつも余裕のあった彼女が、泣きながら許しをこうシーンは胸にくるものがありました)

演出の手腕にも、適度に緊張感のあるストーリーにも、光るものを感じました。

彼らには、自分たちが丁寧に「おとぎ話」を作れば、たくさんの観客を魅了でき、興業収益を上げられる自信があったのです。

逆に考えると、その自信がないほど、あの手この手の魅力を追加して、味付けをして誤魔化す手にでてくるのです。

  • あの人気作を実写化!
  • 新人女優とジャニーズメンバーの映画初主演!
  • 脇役に話題の芸人を起用!
  • 迫力のCG映像!
  • 心に残る教訓!
  • CMで、試写会をでてきた人たちが「感動しました!」

うーん、近年の邦画事情の悪口みたいになってしまいましたね。。
しかし、邦画の苦しい事情もわからないでもありません。
なにしろ邦画はハリウッド映画と違い、「日本語が分かる人限定」だから市場が狭いのです。

英語の映画だったら、英語のわかる10億人相手に商売できるけど、日本語の映画は基本的に日本でしか上映できません。1億人相手の商売しかできないのです。当然、同じくらい素晴らしい映画を作っても、10分の1の売り上げにしかならないんですよね…。

(※英語字幕、吹き替えなどもありますが、よっぽどのヒットや実力作でもない限り、海外ではたいして上映されていません。)
だったらどうすればいいか。

1.製作予算を抑える

当然ハリウッドスターのような華と実力のある俳優は呼べませんし、演技力のあるベテランより、あまり予算がかからない新人女優を選ぶ必要もでてきます。
いくら効果的でも、「パーティーのシーン」「坑道のシーン」など予算がかかりそうなら諦めて、少ない予算でもなんとか撮影できそうな脚本になっていきます。

2.売り上げをあげる

ちょっとでも関心を持ってもらって観客動員数をあげるべく、旬の芸能人をチョイ役に起用したり、堅実な動員が見込めるジャニーズ・アイドルを起用したり。
タイアップ商品、コラボ企画、CMゴリ押し…とにかくやれることは全てやって、なりふり構わず収益をあげるのです。

日本に映画がこういう状況になってしまったのはなぜなのか。

昔々は、そんなことなかったんですよね。
むしろ、数十年前の「撮影所システム」が生きていた頃は、むしろこの映画のような「おとぎ話のようで、クオリティが高く、期待を裏切らない」そんな映画を得意としていたのではないでしょうか。

また、当時は、今では死語となってしまった「映画スター」がいました。
華やかで、魅力的で、圧倒的な存在感を放つ彼らがいれば、シンプルなストーリーもとびきりの名作となったのです。

しかし、映画スターを抱えた撮影所も、次々と閉鎖していきました。
理由はもちろん、収入の不足。つまり映画の観客動員数の激減です。

昭和33年には、日本の映画の観客動員数は年間11.27億人を記録しました。
しかし、その数はテレビの普及によりどんどん減少していきます。現在では年間1.6億から1.7億人といったところです。
人口は増えていることを考えると、日本人が映画にいく回数は10分の1近くまで減っているんですね。

日本の映画界も廃れるわけです。

まとめ

お金がないから、いろんな人に媚びを売ったごちゃごちゃした味付けにせざるをえない。
お金があるから、ハリウッドスターも、豪華なセットも思いのまま。

アデラインはクオリティの高い、よき「おとぎ話」でしたが、その裏には邦画とハリウッドの間にある、なんともしがたい資金力の格差を感じさせられたのでした。

夢のあるおとぎ話で現実を知らされるとは、何とも皮肉な話です…。

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