この二つの映画は非常によく似ています
『ハドソン川の奇跡』は
- 飛行機がトラブルに陥り、あわや大惨事
- しかし機長(主人公)の機転によりハドソン川に緊急着水。
- マスコミに英雄扱いされる機長。
- だが、機長に責任があるのでは疑惑がおこり…!
一方、『フライト』はこんな感じです
- 飛行機がトラブルに陥り、あわや大惨事
- しかし機長(主人公)の機転により背面飛行で緊急着陸
- マスコミに英雄扱いされる機長。
- だが、機長に責任があるのでは疑惑がおこり…!
うん、めっちゃ似てますね。
でも似たような作品ですが、二つの作品の間には、大きな違いと、それぞれの魅力があるんです。
簡単な解説
ハドソン川の奇跡は監督クリント・イーストウッド、主演トム・ハンクスという二人のビッグネームのおかげもあって、日本でも知名度が高いですね。
『フライト』は知名度こそいまひとつですが、主演はアカデミー賞俳優デンゼル・ワシントンに、監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレストガンプ」のロバートゼメキス。
こちらも非常に実力あるスタッフで作られています。
映画の「格」としては一歩も引けをとりません。
予告編↓
映画に漂う「緊張感」
『フライト』と『ハドソン川の奇跡』を比較したとき、うちの嫁が言いました。
「墜落シーンは、『フライト』のほうがドキドキしたなー。」
ハイ、ここ重要です。
彼女の率直な感想は、かなり大切な要素を示しています。
同じような「飛行機墜落」を描きながら、二つの映画は描き方がかなり異なっています。詳しくみてみましょう。
まず、飛行機事故の結果が明らかになっているかどうか。
『ハドソン川の奇跡』では、映画冒頭の時点で、すでに無事に着陸(着水)した後のシーンです。観客は大事故にならなかったことを既に知っているのです。
しかも邦題にいたっては『ハドソン川の奇跡』。完全にうまくいってる前提のタイトルですよね(笑) (ちなみに原題は主人公の機長の名前である『Sully』。)
もっとも、この映画は実際の事件を元にしていることは周知の事実ですので、どう頑張っても結果がバレてしまう運命にあるんですけどね。
一方、『フライト』の方は映画を出来事順に追っていきます。
映画の冒頭はフライト当日の朝。何が起こるか、どれだけ死ぬか、全くわからない状態で事故に巻き込まれていきます。
そりゃあドキドキしますよね。
そういえば、事故の内容にも違いがありますね。
- 『ハドソン川の奇跡』→川に着水。
- 『フライト』→背面非行で草原に着陸。
…どちらが難易度高いか、一目瞭然ですね(^^;
余談ですが、我々日本人は、「着水ってそこまで難しくないんじゃない?」と思っている傾向にあります。きっと『紅の豚』とか観てるせいです(笑)
さて、これだけ挙げると、『フライト』のほうがより緊張感が高い映画に思えてきますが…。
しかし、『ハドソン川』には『フライト』にないリアリティの重みという大きな魅力があります。
実話を元にした作品だからこそ、人の命がかかってくるシーンではその重みが違います。
逆に『フライト』では、あまりに現実離れした背面非行なんかのせいで、リアリティが削がれてしまうかもしれません。
たしかに、『フライト』では亡くなった乗客一人一人に対し、「かわいそうだな…」とは思わなかったような…。
そして重要なのは、この傾向は単に事故の描写だけではなく、映画全体にまで及ぶと言うことです。
『フライト』には、常に観客をドキドキさせる展開に優れたものがありました。
一方『ハドソン川』には、それを補ってあまりある「これはフィクションではない」という重みがありました。
どちらも魅力的で、好みが別れるところですね。
映画の味わい
また、ふたつの映画はストーリーの味わい方にも違いがあります。
どちらも主人公に疑惑がかかるのは一緒なのですが…
『フライト』では、疑惑のかかった主人公が必死で否定しようとするけど、そのうちどんどんボロを出して追いつめられていきます。
次々と変わるシチュエーションの中で、その度にドキドキした緊張感に包まれる、エンターテイメント性の高い映画でした。(さすがロバートゼメキス監督!)
一方、『ハドソン川』では、主人公に疑惑がかかるのものの、なぜ主人公が追いつめられているのか、彼に落ち度があるのかがわからないまま映画が進んでいきます。
怯えた目をしたまま多くを語らない主人公の姿勢もあって、不安は感じるもののそれが明確にならない、ソワソワした怖さを感じました。クリント・イーストウッドらしいですね。
あるいは
- 『フライト』は追いつめられていく緊張感の高い、エンターテイメントな映画、
- 『ハドソン川』は心理的な不安が恐怖を増幅させる、サスペンスに近い味わい
といっても良いでしょう。
余韻
ところが、どちらの映画も、観終わった後の余韻は大きく変化します。
『ハドソン川』は一言で言えば勧善懲悪。
今までのモヤモヤを見事に吹き飛ばすスッキリ感です。憎たらしい事故調査委員会のおっさんを見返してやった時点で気分壮快!
なにも心残りがない、非の打ち所のないハッピーエンドです。
エンディングロールでの、実写での“同窓会”の晴れ晴れした空気が印象的でしたねー。
一方、『フライト』は人によってはモヤモヤが残るかもしれません。
なにしろ、主人公はクズで、家族を苦しめ、どうやら元妻と再構築せずに新しい彼女ができた様子。
いくら深く反省しても、生理的に受け付けられない人もいるでしょう。
それに、この事故は「奇跡」ではなく、尊い命が失われています。
決してハッピーエンドと手放しでいえる状況ではありません。
しかし、主人公はたしかにクズでしたが、自分自身の弱さに打ち勝つ姿に、僕は深く感動しました。
それに個人的には、こういう「トゲ」や「ひっかかり」のあるエピソードのほうが、人生の深みや味わいを感じ、心に深く残ると思っています。
(そういえば向田邦子さんは著書の中で「釣り針の返しのように」と絶妙な表現をされていました。)
まとめ
実際、『ハドソン川の奇跡』はいい映画でした。
トムハンクスの不安げな瞳。
鋭い追求と、サスペンスのような焦燥感。
それを、最後に全てひっくり返すカタルシス!
掴みはサスペンスですが、最後は晴れ晴れした気持ちになる立派なエンターテイメントになっていました。
誰にでも勧められる、優れた映画だと思います。
それを裏付けるように、Rotten Tomatoesの評価は、『フライト』78%に対し、『ハドソン川の奇跡』(『Sully』)は86%という高評価!
一方、『フライト』は逆に、掴みはエンターテイメントだったのに、最後の最後で“人の心”の奥深くにぐいっと踏み込んできました。
『ハドソン川』が届かなかったアカデミー賞に、脚本賞、主演男優賞の2部門でノミネートされたことからも、映画界での評価の高さが伺えます。
クセが強く、人を選びますが、ハマる人には素晴らしい感動を与えてくれる映画だと言えるでしょう。
…そう、結局僕は、『フライト』が大好きなんですよね。
『ハドソン川の奇跡』を観た人にも、ぜひ知って欲しい一本の紹介でした(笑)