アナと雪の女王をブームにした、たったひとつの理由

ネットに溢れているのは「主題歌の歌詞が、現代の女性の心を掴んだ」とか「ダブルヒロインがどうのこうの」といった意見ですが、個人的にはもっと別の、あるシンプルな需要が原因だと考察しています。

それは「プリンセスへの飢え」です。

プリンセスの系譜

まずは、ディズニープリンセスの系譜をみてみましょう

ちょっと長いですが、赤字で強調したプリンセス映画だけでも目を通してみて下さい

(※あくまで、私がプリンセス映画だと判断した作品をピックアップしています。)

『白雪姫』(1937年)
『ピノキオ』(1940年)
『ファンタジア』(1940年)
『ダンボ』(1941年)
『バンビ』(1942年)
『ラテンアメリカの旅』(1942年)
『三人の騎士』(1944年)
『ファン・アンド・ファンシーフリー/こぐま物語』(1947年)
『メロディ・タイム』(1948年)
『イカボードとトード氏』(1949年)
『シンデレラ』(1949年)
『ふしぎの国のアリス』(1951年)
『ピーター・パン』(1953年)
『わんわん物語』(1955年)
『眠れる森の美女』(1959年)
『101匹わんちゃん』(1961年)
『王様の剣』(1963年)
『ジャングル・ブック』(1967年)
『おしゃれキャット』(1970年)
『ロビン・フッド』(1974年)
『くまのプーさん』(1977年)
『ビアンカの大冒険』(1977年)
『きつねと猟犬』(1983年)
『コルドロン』(1985年)
『オリビアちゃんの大冒険』(1986年)
『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』(1988年)
『リトル・マーメイド』(1989年)
『ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!』(1990年)
『美女と野獣』(1991年)
『アラジン』(1992年)
『ライオン・キング』(1994年)
『ポカホンタス』(1995年)
『ノートルダムの鐘』(1996年)
『ヘラクレス』(1997年)
『ムーラン』(1998年)
『ターザン』(1999年)
『ダイナソー』(1999年)
『ファンタジア2000』(2000年)
『ラマになった王様』(2000年)
『アトランティス/失われた帝国』(2001年)
『リロ&スティッチ』(2002年)
『トレジャー・プラネット』(2002年)
『ブラザー・ベア』(2003年)
『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』(2004年)
『チキン・リトル』(2005年)
『ルイスと未来泥棒』(2007年)
『ボルト』(2009年)
『プリンセスと魔法のキス』(2009年)
『塔の上のラプンツェル』(2010年)
『くまのプーさん』(2011年)
『シュガー・ラッシュ』(2012年)
『アナと雪の女王』(2013年)

「ディズニー映画といえばお姫様」という印象を持つ方もいるかと思いますが、こうやってみてみると、意外にもそう多くないんですよね。53本中わずか10本。全体の2割にも満たない数なんですね。

初期の名作『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』は大変有名ですが、それぞれ1937年、1949年、1959年とかなり古い映画です。

目を見張るのが、1989年から1992年にかけてのプリンセス映画ラッシュです。

『リトル・マーメイド』(1989年)

『美女と野獣』(1991年)

『アラジン』(1992年)

わずか4年の間にプリンセス映画の名作が目白押しです!素晴らしいですね。
奥さんはこの黄金期に育ったせいか、「ディズニー映画といえばお姫様」の印象を強く持っています。

しかしそれ以降、実は“プリンセスらしいプリンセス”がしばらく途絶えていたことが分かります。

“プリンセスらしいプリンセス”と言うと女性蔑視と怒られてしまいそうですね。
たくさんの小さな女の子達が「こんなお姫様になりたーい!」と憧れるような女性と解釈して下さい。
もちろん小さな女の子がみんな『お姫様』に憧れるわけではないし、誰もがウェディングドレスを着たいわけでもありません。
でもいったんこれで話を進めます。

たとえばネイティブアメリカンの女性を描いた『ポカホンタス』(1995年)は一見プリンセス映画ですが、ディズニーには珍しく恋が実らない映画でした。

古代中国を描いた『ムーラン』(1998年)はプリンセス映画ですが、僕の周囲の女性にとってはビジュアル面で「憧れのプリンセス」とは少し違ったようです。
もちろん彼女たちは白人至上主義ではありませんが、彼女たちにとってプリンセスとは“素敵なドレス”とワンセットなようです。

2009年の『プリンセスと魔法のキス』はタイトルにもあるとおり、正真正銘のプリンセス映画です。
ところが、その相手はカエル。もちろん中身は違うわけですが、でも見た目はカエル。
カエルにキスすることを憧れる女の子は、あまり聞いたことがありません。

『アラジン』以降、小さな女の子が憧れるような『プリンセス』はなんと2010年公開の『塔の上のラプンツェル』まで待たなければなりません。
その間、なんと18年間!!

それにしても、なぜこんなにプリンセス映画が少なかったのでしょうか?

プリンセス映画に対する逆風

実は欧米では以前から、一部でディズニープリンセスの偏った描かれ方を問題視する意見がありました。それどころか、「子育ての悪影響になる」として子供にディズニー映画を見せない親がいるのです。

いわく、「女性の幸せは男性と結ばれること、という描かれ方が前時代的で女性蔑視」「白馬に乗った王子様を待っているだけの女の子ではなく、自分から幸せをつかみ取りに行く、自立した子に育って欲しい」。

また、ディズニーがプリンセスを常に白人女性として描いていたことにも根強い批判が存在します。

それぞれ思うところはあるでしょうが、これらの意見の是非についてはここでは論じません。

しかし今や、男女差別や人種差別について大変ナイーブになっている時代です。
特にディズニー映画の最大のターゲットは、次代を担う子供たち。これらの指摘を考慮しないわけにはいかなかったのでしょう。

先ほどの作品一覧をもういちどみてみると、ディズニーは1990年代以降、明らかに「プリンセスらしくないプリンセス」に舵を切っているのです。「プリンセスだけど、自分で戦う」「プリンセスだけど、王子様を選ばない」という作品が増えていますよね。

『アラジン』(1992年)を皮切りに「脱・白人」も進んでいる、女性が主人公となる映画は『ポカホンタス』(1995年)、『ムーラン』(1998年)、『リロ&スティッチ』(2002年)、そして『プリンセスと魔法のキス』(2009年)と続くが、その全てが有色人種。

プリンセスへの回帰

従来のプリンセス像から距離を置き始めたディズニーですが、記念すべき50作品目のディズニー映画となった『塔の上のラプンツェル』において原点回帰します。
西洋風のドレス、お城、ロングヘアー、お姫様、そして素敵な男性とのロマンスという「いかにもプリンセス」な見た目のラプンツェルを起用します。
まぁ、若干ロングヘアーが長めかもしれませんが。

久しぶりの正統派プリンセスは、『ライオン・キング』、『アラジン』に次いで歴代ディズニー映画の中で第3位(当時)という素晴らしい興行収入を挙げました。

なお、日本ではタイミングがおそろしく悪かった
この映画が公開されたのは2011年3月12日、つまり東日本大震災の翌日。日本中が映画どころではなく、本来テレビやラジオで流れるプロモーションも軒並みキャンセル。
(アナ雪のプロモーション攻勢は効果抜群で、みんな主題歌知ってましたよね。では、ラプンツェルの主題歌は?)

『ラプンツェル』で手応えを掴んだからなのか、それ以前に決めていたのかはわかりませんが、3年後の『アナと雪の女王』において、ディズニーはふたたび「いかにも」なプリンセスを描きます。それも二人も!二人とも!

おそらくディズニーも気づいたのでしょう。世界がディズニー映画に期待していたのは、やはりプリンセスだったんです。
いや、もっといえば、世界中の女の子が『プリンセス』を求めているんです。

たとえば我が家では、決して娘に「女の子らしくあれ」と教えてきませんでした。絵本もおもちゃも、お兄ちゃんたちの集めた電車や恐竜が大半でした。
それでもなぜか娘は「ぷりんせす」「おひめさま」が大好きで、「ドレス」や「スカート」に目を輝かせ、ウェディングドレスに憧れを抱きます。
彼女曰く、「めが はーとになっちゃった」そうです。

彼女たちは、教えなくても好きなんだと思います。
西洋風のドレスも、お城も、ロングヘアー、お姫様も、そして素敵な男性とのロマンスも。
娘がお姫様を好きなのは、自立しなくていいからでも無いし、男性に依存したいからでもありません。
ただただキレイでカワイイお姫様が好きなんです。それだけです。

アナ雪のヒットは、プリンセスへの飢えへの反動です。
アラジン以降、18年間もプリンセスらしいプリンセスを描いていなかったのですから。

『ラプンツェル』でもある程度ヒットしましたが、今思えばそれが起爆剤となったのでしょう。
最近のディズニーはイマイチで観に行かなかったけど、DVDで観た『ラプンツェル』もよかったし、『アナと雪の女王』は映画館に行こうかな、と。

しかも2013年という時期が絶妙です。
子供の頃に『リトル・マーメイド』(1989年)、『美女と野獣』(1991年)、『アラジン』(1992年)を観て「めが はーとになっちゃった」女の子達が大きくなり、自分で女友達を誘って映画にいける時期に当たるのです。
彼女らは黄金期に鍛え上げられた、いわばディズニープリンセスの申し子達です。
あるいは彼女たちは自分の娘を連れて観に行ったかもしれませんね。

映画を観た彼女たちが「めっちゃよかったー!!」と友達に、保育園のママ友に、SNSに報告してくれることで、さらに多くの人が興味を持ちます。

アナ雪はとても良い映画です。
プリンセスでありながら女性軽視からも脱却するバランス感覚は素晴らしかったし、歌も、CGも、ハイクオリティでした。
ユーモラスでキュートなオラフは終始観客を和ませてくれました。

でもやっぱり、この映画がヒットした最大の理由は女の子の「おひめさまがすき」というキラキラした気持ちにあると思います。
黄金期に築き上げた「プリンセスはディズニー」という信頼感と、長年満足できるプリンセス映画に出会えなかった飢餓感がそれを爆発させたのです。

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