禁じられていた時代【1930年代~1960年代】
今でこそ個人の自由として認知され始めている同性愛ですが、わりと最近までは「社会不適格者」として迫害されてきた歴史があります。
たとえば1930年代イギリスを舞台にした映画『アナザーカントリー』は実話を元にしていますが、同性愛者だと露見した主人公が迫害され、エリートコースから没落し、ついには絶望と怒りから敵国のスパイとなっていく過程を描いています。
また、アメリカでは伝説的な人物である初代FBI長官J・エドガー・フーヴァーを描いた伝記的映画『J・エドガー』でも、彼がアメリカを影で牛耳る存在でありながら、同性愛者であることを隠し続けなければいけない苦悩が描かれています。
また彼はマフィアの犯罪行為に対し基本的に黙認の姿勢をとっていたが、トルソンとの関係を証明する写真をマフィアが所有していたせいではないか、という説もある。
J・エドガー(監督:クリントイーストウッド、主演:レオナルドディカプリオ)
同性愛者は迫害されるどころか、犯罪者扱いされていたケースすらあります。
イギリスの天才的数学者を描いた『イミテーションゲーム エニグマと天才数学者の秘密』では、主人公が同性愛を理由に懲役刑か化学的去勢を選ぶよう強制されるシーンまであります。
また、アカデミー賞作品賞にノミネートした映画『ブロークバックマウンテン』でもこの時代の同性愛者の辛さが描かれています。
この映画は1963年から1983年あたりを舞台にしていますが、子どもの頃(1950年くらい?)の回想として、同性愛者と発覚したせいで、知人が仲間からリンチにあって惨たらしく殺された記憶が出てきます。(南部アメリカはとりわけ同性愛に対する偏見が強い地域です)
一方、レズビアンのカップルを描いた映画『キャロル』では、そんな時代にも関わらず、まっすぐにお互いを愛し合う二人を美しく描きだしています。
このお話は1952年にアメリカで出版されたパトリシア・ハイスミスの小説が原作となっていますが、当時は珍しい「同性愛者のハッピーエンド」であり、(おそらく隠れた同性愛者を中心に)大きくヒットしました。
こんな時代だったからこそ、こんな二人に憧れたのかもしれませんね。
『キャロル』(主演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ)
ところで、気づいた方も多いでしょうが、今挙げた映画はほとんどが2000年代以降に公開された映画ですよね。(『アナザーカントリー』だけは1984年の映画ですが、これは既にヒットしていた舞台劇の映画化でした)
実は、ハリウッドでは同性愛を描くことすら「非道徳的」だと禁止していた歴史があるんです。
その規制は「プロダクションコード」といい、道徳に反する描写を禁止していまいた。
同性愛だけでなく、「宗教の冒涜、殺人や犯行の細部を描く、中絶、売春、強姦、白人と黒人が交わること、出産もダメだしヌードもダメ。性的な抱擁もダメ、卑猥な言葉もダメ。口を開けたキスもダメ。」という、今から考えると酷すぎて開いた口がふさがらないような内容です(笑)
もともとは、1930年代にギャング映画が台頭し始め、暴力を美化するのをやめようという政治的な運動から運用化されたものでした。
ようやく廃止されたのは1968年。なんと四十年近くも経った後でした。
徐々に世の中に出始めた時代【1970年代~1980年代】
法的な差別もなくなり、プロダクションコードが解禁されたとは言え、すぐさま同性愛の全盛期…とはいきませんでした。依然として同性愛者は肩身が狭い思いをしており、無言の圧力や差別に苦しんでいました。
1969年に公開された『真夜中のカーボーイ』ではたしかに「男娼」「男性から男性へのレイプ」などが描かれましたが、主人公の男二人の関係は“奇妙な友情”と匂わせるに留め、明確に同性愛と描くことを避けています。(もっとも、観る人が観ればピンと来るそうですが)
また、1970年代ニューヨークを舞台にした映画『チョコレートドーナツ』では、ゲイのカップルが育児放棄された障害児を育てようと苦闘します。
以前と異なり「ゲイをオープンにして生きていくこと」自体は可能になりましたが、まだまだ様々な面で迫害を受けていた事情が痛切に描かれていました。
しかし、少しずつ世の中は変わり始めています。
この時代のひとつの代表として、1975年公開の『ロッキーホラーショー』を紹介したいと思います。
ロックンロールへのノスタルジーと、同性愛と、SFと、B級ホラーを融合させた奇抜すぎる映画で、カニバリズム(食人)あり、乱交あり、女装あり、麻薬ありとまさに何でも有りの内容から、試写会では観客が次々と途中退席する散々な低評価だったそうです(笑)
当然公開してもヒットしなかったのですが、なぜか異常にリピーターが多いことに気づき、深夜上映が続けられることになります。
さらにある時、この映画にハマった一人の青年(なんと高校教師)が「ロッキー・ホラー・ファンクラブ」を結成します。彼らは毎週末の深夜に映画館にコスプレをして集まり、スクリーンの前で自分たちも登場人物を演じたり、一緒に歌い、踊り、スクリーンに向けてツッコミを入れたり、紙吹雪を投げるという行為を楽しみ出しました。
今でいう『観客参加型上映』、『体験する映画』として、「ロッキー・ホラー・ショー」は一つの文化になり、なんと40年以上経った今でも上映会が続けられているのです。
この映画の脚本家はインタビューで「『人と違うこと』を祝福している点が、評価されたのだと思うよ」と語っています。(彼自身もトランスジェンダーであると告白しています)
もう一つ、1984年を舞台にした映画『パレードへようこそ』も観ていただきたいです。
レズビアン・ゲイの活動家達が、炭坑閉鎖のストライキに「炭鉱労働者が虐げられる現状は同性愛者と同じだ」協力しようとするものの、「ゲイに助けられた鉱山なんてバカにされる」と拒絶されたりといった紆余曲折を描いたドラマで、なんと実話です。
個性を認める時代【1990年代~】
1993年公開の『フィラデルフィア』では同性愛とゲイに対する偏見を法廷で覆していく…という映画でした。
また、この映画で同性愛者を演じたトム・ハンクスがアカデミー主演男優賞を受賞しました。
そう、同性愛を禁じていたあのハリウッドでの受賞ですよ!
また先ほど紹介した『ブロークバックマウンテン』は同性愛を真っ正面から描いたロマンスですが、2005年にハリウッドの最高賞とされるアカデミー作品賞にまでノミネートされます!惜しくも受賞は逃してしまいますが…。
他にも家族にカミングアウトしようとしたら兄が先にカミングアウトしちゃったドタバタを描いた『明日のパスタはアルデンテ』や、家族を捨てオカマバーのママになった父との邂逅を描いた『メゾンドヒミコ』など、同性愛者そのものをテーマとした映画も多数出てきました。
他にも先ほど紹介した『キャロル』や『アデル/ブルーは熱い色』などの同性愛者のラブロマンスにも焦点が当てられた傑作も続々と出てきました。それぞれカンヌ国際映画祭のパルムドールにノミネート/受賞しています。
また、アメリカのハイスクールを舞台にしたジュブナイル映画『ウォールフラワー』、日本の高校を舞台にし男子シンクロナイズドスイミングを描いたコメディ『ウォーターボーイズ』などにも自然と同性愛者が登場し、周囲もそれを受け入れている点も大きな進歩ではないでしょうか。
2016年、同性愛をテーマにした映画『ムーンライト』がついにハリウッドの最高賞とされるアカデミー作品賞を受賞します。
そしてディズニー実写映画『美女と野獣』までも、同性愛者であることを仄めかすキャラクターが登場したのです。
まとめ
これらの映画を追っていくと、迫害されていた同性愛者が次第に世の中から認められてきた歴史が垣間見えます。
しかしまだ、これで十分とは決して言えません。まだまだ、世の中は変わっていく必要があるのです。
最後に、「パレードへようこそ」の名言を紹介したいと思います。
自分よりはるかに巨大な敵と闘っているときに
どこかで見知らぬ友が応援してると知るのは最高の気分です