『雨に唄えば』はミュージカル映画の名作として、今なお根強い人気を誇っています。とっても楽しく、いい映画です。
ただ、正直に感想を言うと、「すごい!!名作!!参りましたああああ!!!(ビクンビクン」と感動の嵐に包まれたわけではありません。「うん!面白かったー!」くらいの軽さです。
いや、もちろん良い映画なのは認めますよ!!
でも僕には「世紀の名作!」とまで言えるか、自信が無いんです…
一体なぜこの映画が名作とされているのでしょうか?真剣に考察してみました。
実際はどれくらいの評価なのか?
アメリカ映画協会『史上最高のアメリカ映画100本』
まずは、1998年にアメリカ映画協会の選定した『史上最高のアメリカ映画100本』をみてみましょう。このランキングでは第10位という評価を得ています。
アメリカ映画史上第10位ってことですから、かなりの高評価ですよね!
なお、このランキングは、アメリカ映画協会が選んだ400の候補映画のリストから、1,500人以上の映画界の第一人者(※)を招いて投票して作成しました。
(※脚本家、監督、俳優、プロデューサー、映画製作者、編集者、役員、映画史家、批評家など)
映画界の第一人者ということで、たしかに映画を観る目は肥えているでしょうが、観る側ではなく作る側の視点ということは留意しておきたいですね。
英BBC『100本の偉大なアメリカ映画』
次にイギリスBBCの作成したランキング、『100本の偉大なアメリカ映画』をみてみましょう。さきほどのランキングは映画制作サイドの視点でしたが、このランキングは世界中で活躍する62人の映画批評家に投票して作成しました。
今回の投票者は映画をつくる側でなく批評する側なので、少し視点が違いますね。
しかしこのランキングでも、『雨に唄えば』は7位と高評価です。
IMDbのユーザーレビューでは?
次に、IMDbを観てみましょう。
あまり馴染みのない人もいるかと思いますが、IMDbは「Internet Movie Database」の略称で、いわゆる「yahoo映画」や「映画ドットコム」のような映画情報サイトですね。
日本の情報サイト同様、一般ユーザーによる映画のレビューも集積されており、星10個で採点されます。
今までで一番、庶民感覚に近い評価と言えます。
この採点では、『雨に唄えば』は★8.3になります。
数字だけではわかりにくいですが、一世を風靡した『ラ・ラ・ランド』が★8.0、『タイタニック』でも★7.8ですから、なかなかの高得点ですね。
ただし順位で観ると同率78位。アメリカ映画縛りがないとは言え、少し順位を落としています。(それでもかなりの名作ですけどね!)
当時の興行成績は?
これだけ大人気の作品ですから、さぞや当時は大ヒットしたのだろうと思いますよね。ところが、意外とそうでもないのです。
製作費 | 2,500,000ドル |
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配給収入 | 3,263,000ドル(北米) 2,367,000ドル(海外) |
(wikipediaより)
サイトによって若干の幅はありますが、こんなところです。
興行的には黒字ですが、そんなに大ヒットしたわけではないみたいですね。年間ベスト10とか、せいぜいそんなレベル。
どこが人気なのか?
この映画の魅力とは一体なんでしょう?
様々なレビューなどを読んでみると、こんな傾向が浮かんできます。
- コミカルでクオリティの高いダンス。
- 有名なジーン・ケリーが雨の中で踊るシーンがいい。
- 単純明快なストーリーが楽しい。(※賛否両論)
- 音楽が素晴らしい。
- 古き良きハリウッド映画の傑作。
うーん、たしかにその通りなんですけどね。歌も踊りもよかった。
それでも、世紀の名作といわれると納得しづらいんですよね…。
さらに、アメリカ映画協会の発表している分野別ランキングを観てみましょう。
100本の大笑いできる映画→ 16位!
100本の情熱的な恋愛映画→ 16位!
100曲の映画名曲→ 3曲もランクイン!
偉大なミュージカル映画→ 当然1位!
ミュージカル映画や名曲にランクインしてるのは当然として、「大笑いできる映画」や「情熱的な恋愛映画」にも入っているのがちょっと意外でした。
正直自分は、この映画を「大笑いできる映画」や「情熱的な恋愛映画」として評価していなかったような気がします。
そして、ついに僕が納得できる一文を見つけたのです。
映画レビューブログ「that’s movie talk」さんで書かれていたこの記事から引用しました。
話をこじつけて、楽しく唄って踊る、尚且つ物語が面白ければそれでよしなのだ。
それを演じるのが最高のエンターテナーならば、観る者は大満足する。
ああ、そうか!なるほど!
僕は勘違いしていました。この映画はエンターテイメントの傑作なんですよ!!
僕は「世紀の名作!」だとか「ベスト100!」だとかの権威を耳にして、「さぞ心を震わせる名作に違いない」だとか、「衝撃のどんでん返しに感動するのか」と思いこんでいました。(←そういうのが好きなんで…)
でも、映画の魅力って、もっと幅広いですよね。
考えてみれば僕も、中身が空っぽでド派手なアクションの映画だって大好きですし、冗談みたいなコスチュームのアメコミヒーローの実写化だって欠かさず観ています。「楽しければいいじゃない!」の精神で気楽に楽しみ、「いや~楽しかった!これぞエンターテイメント!」とゴキゲンになります。
この映画は、きっとそういう映画なんですよね。
たとえば面白い事実として、さきほどのIMDbのユーザーレビューランキングをみてみます。『雨に唄えば』は★8.3(78位)でしたよね。
実はもっと上に意外な映画があるのです。
★8.7『スターウォーズ 帝国の逆襲』や★8.5『アベンジャーズ・インフィニティーウォー』です。
おお、そうか…なるほど…
正直僕はスターウォーズやアベンジャーズを感動の名作と思ったことはありません。泣いたこともないし、衝撃の展開に鳥肌がたったこともありません。
でも、アベンジャーズ大好きです。超楽しい。
面白い逸話があります。
スターウォーズを作り終えたジョージ・ルーカスは同世代の映画監督や関係者を招き、試写会を行いました。
ところが、上映後、一同の間には気まずい空気が流れ、そして口々にスターウォーズを酷評しはじめました。
特に、当時映画界で人気を博していたブライアン・デ・パルマ監督の意見は辛辣でした。「ダースベイダー、えらく陳腐な悪玉だな」
「フォースの設定が便利すぎない?ご都合主義?」
「冒頭の状況説明長すぎない?」
「レイア姫の髪型はなんだあれ。菓子パンかい。」
「ようするに、映画として認められない」
…まさにボロクソです。他のみんなも次々と、「きっとこの映画は失敗するに違いない」と言いきりました。
でもそんな中、スティーブン・スピルバーグ監督だけはこういったそうです。「いや、一億ドルは儲かるんじゃないかな」
お分かりでしょうか?
映画は文学でもあり、芸術でもあり、感動でもあり、そしてなによりエンターテイメントなんです。
心を震わせるストーリーもいいでしょう、作品としてのクオリティの高さも大切です。でも、観客は映画に楽しさを求めているんです。それをスピルバーグ監督はわかっていました。(そして僕は分かっていなかった!)
『雨に唄えば』は徹頭徹尾、エンターテイメントでした。
わかりやすくて、楽しくて、ハッピー。まさにエンターテイメントのお手本です。
世紀の名作たるには、実はそれだけで十分だったのです。