映画「ロードオブウォー」は本当に実話?モデルとなった武器商人達。ネタバレ解説

lordofwar

娯楽映画かと思いきや、最後にずっしりときた映画でしたね…。
しかし気になるのが、この映画は「事実を元にしている」とされていますが、一体どれくらい実話なのか、ということです。

そこで、主人公のモデルとなった武器商人達のエピソード、そしてエンドロールで明かされた先進国の武器輸出の実態について調べてみました。

モデルとなった武器商人たち

この映画の主人公ユーリ・オルロフは、特定の一人の人生を再現したものではありません。生い立ちや家族関係はほとんど創作と思われます。

しかし、彼のような武器商人が実際に暗躍していたのは紛れもない事実。
映画の中のエピソードも、実際に存在した何人もの武器商人たちをモデルに、イメージや逸話を再構成してつくりあげたとされています。

では、実際に主人公のモデルとなった武器商人達を見てみましょう。

サルキス・ソガナリアン

そのままズバリ「Merhant of death(死の商人)」の通称を冠しており、冷戦の最大の武器商人と評されています。イラクに大量の武器を供給し、サダム・フセインから厚い信頼を受けていました。

映画の主人公の「誰にでも武器を売る」商売のスタイルは、“世界の敵”フセインに武器を売っていたソガナリアンをモデルにしていると言われています。

彼は後年、イラン・イラク戦争当時にCIAや政府高官から極秘の依頼を受けていたことを示唆しています。果たして本当にそんな事実があったのでしょうか?
ともあれ、彼は何度当局に逮捕されても、なぜか、長くても数年、早ければたった一年で釈放されているのは事実なのです。

オレグ・オルロフ

ソ連が崩壊したときに、その武器を密輸することで利益を上げ、武器商人としての活動を始めたロシアの武器商人です。(ソ連崩壊時の武器流出は映画でも描かれてましたね)
主人公の名字「オルロフ」は彼からとられていると思われます。

後にイランにミサイルを密輸した疑いで逮捕されるのですが、ネットで見つけた記事によれば「捜査が続いている中、獄中で絞殺された」と不可解な説明がされています。

普通に考えて、まだ捜査中なのに犯人を絞首刑にするなんてあり得ません。
するとやはり「絞殺」なのでしょうか。ではいったい、誰に…?

ビクトル・ボウト

彼も主人公のモデルの一人と考えられています。
彼は航空輸送のフロント企業(犯罪用の隠れ蓑企業)を駆使した密輸テクニックをもっており、映画にもそれが活かされていましたね。
ちなみに彼も元ソ連の陸軍中佐。元ソ連軍人、やりたい放題だな…。

2008年、インターポールの国際指名手配と必死の捜査が結実し、彼はついにタイ王国にて逮捕されます。しかしなんと、タイ政府はアメリカに対し彼の身柄引き渡しを拒否。なぜ!?当然アメリカは猛抗議しますが、タイ政府は頑として拒みます。

結局逮捕から2年以上たって、ようやく身柄が引き渡されることになりますが、その際なんとロシア政府がアメリカに猛抗議。ロシア外相が「彼は無実だ」と示唆したり、妨害工作を行ったり。露骨すぎる。

世界地図みればわかりますが、タイ王国にとってアメリカが地球の裏側なのに比べ、ソ連は地理的にわりと近いんですよね。
ロシアからタイに対して、なんらかの利益供与、あるいは脅しがあったとみるのが自然でしょう。

その後、彼はアメリカで25年の懲役刑を食らいました。取り調べの結果、彼とロシア上層部とのつながりがぼろぼろ出てきているそうです。おそロシア。

セミオン・モギレヴィッチ

ウクライナのユダヤ教徒の家庭に産まれました。
若い頃は、イスラエルやアメリカに移住したいユダヤ教徒の財産整理を手伝い、かなりの額を懐にいれていたのが稼ぎの始まりだとか。
主人公の生い立ちは彼のバックグラウンドに影響を受けていると考えられています。

その後、武器取引だけでなく、売春、麻薬密売、脅迫、殺人請負とあらゆる裏家業をこなし、ロシアンマフィアを代表するドン、裏社会の王へと成長していきます。

FBIのTen Most Wanted rist(10大指名手配犯)に名前を挙げられたほどの人物ですが、結局捕まえることはできず、今もモスクワで悠々自適に暮らしているとされています。なんでもモスクワ市長やロシア上層部ともいい関係を築いているとか。おそロシア。

エドウィン・P・ウィルソン

周囲には不動産王で贅沢な暮らしをする大富豪と思われていましたが、実はリビアに武器輸出をしていた武器商人でした。
彼が密輸したプラスチック爆弾は、アメリカ軍が保有するすべての量を合わせるよりも多かったとか。ひでえ。

逮捕後、元CIA職員という経歴から繋がりを指摘されますが、CIAは一切関係がないと否認します。その後、別の囚人からタレコミがあり、ウィルソンから獄中で捜査官の殺人を依頼されたと。その後のおとり捜査の結果、殺人陰謀罪での25年の懲役刑が確定しました。

しかし後年、彼が雇った弁護士がCIAの機密文書から、彼がCIAの非公式のエージェントである証拠80件を発見。また政府とCIAが捜査中に事実の改竄をしていたことも判明し、世間を揺るがせます。
彼は76歳でようやく釈放されました。

なお、タレコミをした「別の囚人」はCIAの職員以外の誰からも尋問を受けておらず、また、殺人陰謀罪の証拠となった録音音声はウィルソン本人のものと証明されていないそうです。

主人公が逮捕され、後に釈放されるというアイデアは、彼の事件に影響を受けているとされています。

先進国の武器輸出の実態

映画のエンドロールには、ショックを受けました。

世界の武器輸出上位5カ国は、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスである。
彼らは国連安全保障理事会の常任理事国でもある。

この衝撃的な事実は、本当なのでしょうか。

残念ながら、調べてみたらほとんどその通りでした。
ストックホルム国際平和研究所の調査結果に拠れば、2017年時点での上位五カ国はアメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、中国。

「ロードオブウォー」は2005年製作の映画ですが、十数年の間にイギリスに代わってドイツがランクインしただけで、ほとんど変わっていません。(ちなみにイギリスは依然6位につけています)

詳しく見てみると、この通り(数字は世界全体に占めるパーセンテージです)

1 United States 34
2 Russia 22
3 France 6.7
4 Germany 5.8
5 China 5.7
6 United Kingdom 4.8
7 Spain 2.9
8 Israel 2.9
9 Italy 2.5
10 Netherlands 2.1
11 Ukraine 1.7
12 South Korea 1.2
13 Switzerland 0.9
14 Sweden 0.9
15 Turkey 0.8
16 Canada 0.8
17 Norway 0.6
18 Belarus 0.4
19 Australia 0.3
20 Czech Republic 0.3
21 South Africa 0.2
22 UAE 0.2
23 Finland 0.2
24 Brazil 0.2
25 Portugal 0.2

なお、当然「死の商人」による武器密輸はカウントできず、あくまで政府が公式に発表している数になります。

アメリカ34%、ロシア22%が圧倒的ですね。この2カ国で世界の輸出量の半分以上を占めています。

ちなみに武器輸入国は、こんな感じ。

1 India 12
2 Saudi Arabia 10
3 Egypt 4.5
4 UAE 4.4
5 China 4.0
6 Australia 3.8
7 Algeria 3.7
8 Iraq 3.4
9 Pakistan 2.8
10 Indonesia 2.8
11 Viet Nam 2.7
12 Turkey 2.4
13 South Korea
14 United States 2.0
15 Taiwan 2.0
16 Oman 1.7
17 Israel 1.7
18 United Kingdom 1.6
19 Bangladesh 1.5
20 Qatar 1.5
21 Singapore 1.5
22 Italy 1.4
23 Azerbaijan 1.3
24 Japan 1.2
25 Venezuela 1.1

基本的には「武器開発&生産するほどの国力はないけど、軍備は整えておきたい」という国が上位にランクインしています。日本は24位にランクイン。

日本と武器輸出

日本は武器輸出に関しては上位25ヶ国には入っていませんでした。
「さすが平和主義国家」と喜ぶべきなのかどうなのか。実は日本は、長年武器輸出を自ら禁じてきた歴史があります。

戦後、日本は平和主義、戦争放棄の方針と相まって、以下の3国には武器を輸出しない「武器輸出三原則」を定めました。

  1. 共産国
  2. 国連決議で武器輸出を禁止している国
  3. 紛争中の(あるいは紛争しそうな)国

まあ、ざっくり一言で言えば、戦争で武器を使いそうな国です。

その後、「それ以外の国にも厳正かつ慎重な態度を持って対処する」という非常にお役所らしい言い方ですが、まあ要するに事実上の全面禁輸に発展していきます。

この「どの国にも武器を供給しない」という平和中立の立ち位置は、戦後の平和維持に役だったと言えます。

しかし近年、政府はそれを覆そうと条件の緩和を繰り返し、とうとう平成26年には、条件付きながら武器輸出が解禁になったのです。

なぜ、わざわざ武器輸出を解禁したのでしょう?
実は、武器輸出を禁じるのは、国防上大きな問題があるのです。

軍事産業の重要性

自衛隊の装備(戦車、銃、飛行機、戦艦etc)は、基本的に日本製を採用しています。
これは、日本の軍事産業を保護する為でもあります。

たとえば、もしも日本の軍事産業が全て潰れ、自衛隊の兵器は全てアメリカ企業から買うことになれば、どうなるでしょう。それは日本の生命線がアメリカに握られてしまうことに等しいのです。

「最新戦闘機の整備や武器弾薬の供給を止められたくなければ、この不平等な条約を受け入れろ!そういえば中国がそろそろ軍事的に侵略してくるらしいな!」

武器の供給を他国に依存すれば、当然このような政治的力学が働くのです。

現実問題として、日本の武器輸入の9割以上をアメリカに依存している

だからこそ自国の軍事産業の保護は非常に重要なのですが、実は軍事産業において、日本企業はほとんど赤字なのです。

なにしろ、日本の軍事産業が出荷できる先は、輸出が禁じられているため日本国内のみ。つまり自衛隊だけなのです。しかも毎年、予算で決まった数しか買ってもらえません。
大口の一括購入もありえず、毎年少量を細々と作り続けるため、効率も悪い。生産ラインを維持するだけで大赤字でしょう。

ただでさえ赤字であれば、費用を投じて新モデルを開発する余裕なんて当然ないでしょう。
自衛隊の採用している銃は、89式自動小銃。その名の通り1989年に開発されています。なんといまだに30年前のモデルなのです。

それでも日本の軍事産業が何とかやってこれたのは、三菱、川崎重工といった大手企業が「お国のために」身銭を切って不採算部門を抱えてくれていたに過ぎません。
しかし、近年の不景気で余裕が無くなり、ついに撤退を決めた企業が相次いでいるそうです。

そんなわけで「軍事産業も黒字化できるように」、輸出を解禁したのです。(もっとも、戦争での実績もなく、高価なので、海外では全く売れてないそうですが…。)

もうひとつ、近年のトレンドとして兵器の共同開発も重要です

逆に、お互いの企業が協力して共同開発した国同士では同盟意識が高まり、軍事的な緊張が低減されます。例えば、ヨーロッパ諸国が戦闘機を共同開発したり、アメリカとドイツで無人機を開発したり。

当然、日本もその輪に加えてほしいわけですが、そのためにも日本企業に技術と実績の蓄積がないといけません。

そんなわけで、今後日本の武器輸出・共同開発が増えていく可能性は大いにあるのです。

まとめ

調べていけばいくほど、複雑な気持ちになりました。

紛争地帯に武器を供給する武器商人達は、誰を調べても必ずといっていいほど大国の影がちらついていました。

日本は武器を輸出しないことで自国の、そして世界の平和を目指していました。しかし、今は自国の安全保障のために海外に武器を輸出しようとしています。

生き残るためには仕方ないのでしょうか?これが世界の宿命なのでしょうか?
やっぱり、ずっしりとくる映画です…。

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レクタングル大

コメント

  1. クイニ より:

    先日、同映画を鑑賞しもう少し深く武器の状況を知りたく、貴ブロク記事を拝読して、考えさせられる内容でした。
    映画で描かれた国と日本が無関係でいられない状況なのが悲しくと諦めを感じながらも、
    興味深くも自分に残りました。