原作小説、映画版(劇場公開版と未公開版)、そして原作をオマージュした藤子F不二雄の漫画について比較してみました。
※注意!結末の核心部分を含みますので、すでに読まれた方、ネタバレを気にしない方のみ読んでください。
概略
小説『地球最後の男』
1954年に発表されたアメリカのSF小説。リチャード・マシスン作。原題は「I am Legend」。
後生のSF作品、オカルト作品、吸血鬼やゾンビ映画に大きな影響を与えた。
邦題は複数あるが、混乱を避けるためこのページでは『地球最後の男』として紹介する。
映画『アイアムレジェンド』
2007年公開のハリウッド映画。リチャード・マシスン『地球最後の男』を原作に映画化している。
試写会での評判が悪かったため、劇場公開前にエンディングが差し替えられており、2種類の結末が存在する。
漫画『流血鬼』
1978年発表の藤子・F・不二雄のSF短編マンガ。(発表当時は藤子不二雄名義)
公式に述べられているわけではないが、病原体の名前が「マチスン・ウイルス」であり、リチャード・マシスン『地球最後の男』をオマージュしていると思われる。
主人公設定の違い
小説『地球最後の男』
ただ一人生き残った男、ロバート・ネヴィル。
最初は酒に逃避し、落ち込んでいた。
職業等に特に設定はないが、図書館で独学し、一連の現象がウイルスによるものだと突き止める。
映画『アイアムレジェンド』
アメリカ陸軍中佐であり、科学者でもあるロバート・ネヴィル。
軍人であるため鍛えられた肉体をもち、銃火器の扱いにもたけている。
また、科学者としても非常に優秀。社会が崩壊する前から一連の現象を解決できる可能性を秘めた、有能な人材だと目されていた。
一人になってからも自宅地下の本格的な研究室で抗体の研究を続けている。何人もの感染者を捕獲し、治療実験をしてきたが、今のところ全て失敗(死亡)している。
体力と知力を兼ね備えたウィル・スミスらしい超人っぷり。
漫画『流血鬼』
ごくふつうの学生。(中学生~高校生と思われる)名前は登場しない。
オカルトそのものが好きなのか、一連の現象に興味を持っており、新聞記事をスクラップしていた。
生き残ったのは彼と友人の二人で、協力して眠っている吸血鬼の心臓に杭を打ち込み退治していく。しかし、ほどなく友人は敵の手に落ち、彼が最後の一人となる。
病原体の特性/患者の特長
小説『地球最後の男』
正体不明の吸血ウイルスによる。
患者の特性は、原作小説では少しややこしい。
感染して死んでしまった者は「吸血鬼」として蘇るが、低い確率で感染しても命をおとさずに済む者もいる(「新人類」となる)。
「吸血鬼」はニンニクや太陽光を忌み嫌う、いわゆる伝説の怪物・吸血鬼らしい性質を持つ。なお十字架を嫌うのは感染前にキリスト教の信者だった吸血鬼のみ。
生前の人間としての知性や記憶を維持しているが、人間の血を啜る性質を宿す。主人公の妻は吸血鬼化した直後に主人公を襲っているため、知性は残っていても性格は変貌すると考えられる。
身体能力は生前のまま。胸に杭を打ち込むなど、大量出血させることで退治できる。
「新人類」は吸血ウイルスに感染しつつも命を落とさなかった人間。「吸血鬼」にはならなかったため人格は残っているが、夜にしか行動できなくなった。(わずかな時間なら日光も耐えられる。)
「新人類」同士で文明的な集団生活を送っていた。
映画『アイアムレジェンド』
科学者クリピン博士が発明したガン治療用ウイルス(クリピン・ウイルス)による予想外の副作用。さらに空気感染能力をもつようになり、爆発的に拡散した。
(犬は空気感染はしないが、咬傷があると感染する)
致死率は90%。死んだ人は生き返らない。
感染者の残りの9.8%は「ダークシーカー」に変貌してしまい、わずか0.2%の人間は無事に生き残ったが「ダークシーカー」の餌食となった。
ダークシーカーは頭髪が抜け落ち、醜い姿となる。血圧・心拍が異常に上昇し、瞳孔も拡散している。
正常人を遙かに越えた身体能力を持つが、知性はほとんど失われ、他の人間を襲って捕食する凶暴な怪物となり果てている。
吸血鬼というより高機動ゾンビ。怪力なうえ俊敏な恐ろしい生物だが、紫外線には異常に弱くなり、太陽光のもとでは生存できない。撃退方法は主に銃火器。そりゃまあたいていの生き物はそれで死ぬよね
なお、一部のダークシーカーは犬を使役する、トラップを設置するなどの知性を見せている。
漫画『流血鬼』
マチスンウイルスと呼ばれる架空のウイルス。ルーマニアから世界に流行していった。(なお、ルーマニアはドラキュラ伝説で有名な国)
感染すると基礎代謝が極端に低下し、いったん仮死状態となる。(死亡と判断され、葬儀中に遺体が消える…という事件が散発した)
その後、回復し、肌が青白く、赤い目になり感染者として復活する。
感染者は夜を好むようになるが、日光がダメというわけではない。昼夜逆転ニートより優秀! 感染前の知識も人格も維持しており、元の通りの文明生活を送っている。
十字架が苦手で、その幾何学パターンが生理的にダメらしい。ガラスをひっかく音みたいなもんだとか。
物語終盤には、人間を大きく越えた怪力と、心臓に杭を打ち込まれても回復する驚異的な生命力をもつことも発覚する。
実は「吸血」の衝動はもっておらず、感染を広げるために首筋に噛みついていた。
物語の重要なヒロイン
小説『地球最後の男』
人間の女性ルース。日光の下を歩いていたところを主人公に発見される。
実は彼女は「新人類」であり、彼らが主人公のもとに送り込んだスパイであった。また、「新人類」である彼女の夫は過去に主人公により殺害されていた。
しかし、長い生活の末、ルースは主人公を愛してしまう。彼を新人類の処刑から助けようと、逃げ出すよう勧める。
映画『アイアムレジェンド』
アナ。主人公以外に生き残っていた人間の女性。特に秘密はない。もう一人小さな男の子を連れている。
主人公がラジオで放送していたメッセージを聞きつけやってきて、ダークシーカーに襲われていた主人公を間一髪で助ける。
他のヒロインと比べて存在が軽いような…(´・ω・`)
漫画『流血鬼』
感染拡大前からのガールフレンド。名前は未設定。
感染者になってしまった後、単独でこっそり主人公を訪ね、感染者の素晴らしさを語る。
(主人公は秘密の洞窟に隠れていたが、幼少時に彼女を連れていったことがあったため覚えていた)
実は彼女の訪問は感染者たちも承知の上で、主人公を感染者になろうと説得する役割を担っていた。
物語の結末
小説『地球最後の男』
ルースの勧めを無視し、自宅に立てこもり続けた主人公は「新人類」の集団に襲撃を受け、捕獲される。
主人公は「吸血鬼」と「新人類」を区別なく始末していた。文明的な生活を送っていた「新人類」にとって、彼は「吸血鬼」以上に危険な存在だったのだ。
残虐な処刑を前にして、ルースはこっそり彼に青酸カリの錠剤を差し入れる。彼は自らの運命を受け入れ、ルースは彼にキスをしてその場を去る。
主人公は、「新人類」が彼を見る目に恐怖が宿っていることに気づく。
彼は青酸カリをのみくだし、薄れゆく意識の中、新しい人類にとって自分こそが「人々」を殺戮してしまう伝説の怪物(Legend)であったのだと悟る…。
映画『アイアムレジェンド』 劇場公開版
ダークシーカーの襲撃を受け、主人公達は地下の研究室に追い込まれる。
そこで目にしたのは、治療研究のために捕獲した感染者が、元の人間に戻りつつある姿だった。抗体は完成していたのだ!
ダークシーカー達に「抗体は完成した!みんな治るんだ!」と必死に訴えたが、彼らは止まらない。
主人公は意を決し、抗体をアナに託して、我が身を犠牲にしてダークシーカー達を爆殺する。
街を後にしたアナは、ついに生存者たちの村に辿り着く。彼らに抗体を手渡し、「彼は一人で闘い抜き、治療法をみつけた伝説となった。」との独白で幕を閉じる。
映画『アイアムレジェンド』 本来のエンディング
ダークシーカーの襲撃を受け、主人公達は地下の研究室に追い込まれる。
だが、ダークシーカーのリーダー格が指で「蝶」の模様を描き、なにかを訴えようとしていることに気がつく。
主人公は、治療研究のために捕獲したダークシーカーについていた蝶のタトゥーのことを思い出す。
なんと、ダークシーカー達は彼女を取り返しにきたのだ…!
主人公が彼女を返すと、リーダー格の男は彼女を優しく抱き上げる。そして主人公に手を出そうとするダークシーカー達を制して引き上げていった。
主人公は、彼らが文明的な暮らしを始めていたこと、彼らを捕獲して治療実験を繰り返していたのは彼らにとって殺戮だったことに気がつく。
主人公達は街を後にし、車で生存者の村を探しにいく描写で幕を閉じる。
漫画『流血鬼』
主人公は、洞窟に説得に来たガールフレンドの説得も頑として拒む。
君たちは吸血鬼だとなじる彼に対し、ガールフレンドは「あなたたちこそ、罪のない人々の心臓に杭を打ち込んでいく『流血鬼』だ」と言い返す。
しばらくすると、洞窟の外から感染者たちが様子を伺う声がした。実はガールフレンドは仲間を連れて外に待機させていたのだ。
彼女は「出来れば納得した上で仲間になってもらいたかったの…」と残念そうに呟くと、彼女を縛り上げていた荒縄を引きちぎり、抗う主人公の首筋に噛みつく。
…主人公が目を覚ますと、清潔なベッドの上だった。彼はすでに感染者になっていた。
彼は迎えに来たガールフレンドに照れくさそうに語る。
「今から考えるとおれ、ばかみたいだよ。どうしてあんなに感染者になるのをいやがったのか」
「気がつかなかった。赤い目や青白い肌の美しさに!」
夜の街を二人は嬉しそうに歩いていく。
向こうでは、友人が歓迎するように手を振っている。
「気がつかなかった!夜がこんなに明るく優しい光に満ちていたなんて!」
完