こういう映画を楽しめないって、映画好き失格というかセンスがないと思われそうで怖いですが、正直に言います。僕にはつまらなかったです。
退屈だったし、眠たかったし、いまいちどこが面白いのかわからなかったです。
観終わった後、嫁と話してみましたが、彼女も同じような感想でした。
映画界では大絶賛
しかし、僕ら夫婦の感触とは裏腹に、評論家の間では非常に高い評価を得ていたのです。
映画レビュー集積サイトRottenTomatoesでは、なんと批評家満足率95%という超高評価。
「まあ、このサイトは最低点にも最高点にも転びやすい傾向にあるから…(汗)」と思っていたら、比較的穏やかな採点をするMetacriticでも95点を獲得!その年を代表する一本とまで言われるほど、絶賛の嵐なのです…。
うーん、そんなに面白かったっけ…(ーー;
あるいは、単に僕らの見る目がないだけ??
なお、一般市民が自由にレビューをするIMDbでは10点満点中7点と、それなりに落ち着いています。同じようなシステムの日本のYahoo映画の評価も星3.5。
一般の観客は、決して低評価ではないものの、批評家ほど大絶賛しているわけではないみたいです。「もしや僕だけ映画に対するセンスがないのでは…」と不安になってたので、ちょっとホッとしました(笑)
それにしても、なぜ批評家達は、この映画にこれほど感動して高い点数をつけたんでしょうか??
少し興味がわいたので、いろいろ調べて分析してみました。
わかってると楽しめる時代背景
まずこの映画の舞台は、1950年代のアメリカ。どれだけそこを意識しているかが重要です。
この時代は同性愛に対する風当たりが非常に強いのだろうとは想像はつきましたが、どうも僕の考えている以上にひどいものだったようです。
この時代の同性愛者は周囲から理解されないのはもちろん、精神的な「病気」であり、治療の必要がある…とすら思われていました。
当然、同性愛を擁護する論調すら許されず、ハリウッドにいたっては同性愛は放送禁止コード。
それどころか、同性愛は「犯罪」扱いすらされていたのです。
そんな時代背景にも関わらず、堂々と自分自身を貫いて生きた彼女たち…。きちんと時代背景を知っていた人たちには、彼女たちの精神力の強さに驚いたことでしょう。
今思えば、映画の中でも“その辺の事情”を匂わせる描写はいくつかありました。
しかしあまりにさりげなく溶けこんでいたせいで、時代背景を知らない人間からすると「後にして思えば…」とは思うのですが、物語の中で強く主張されていたとは思えません。
気付いてたら、たぶんもっと楽しめたんだろうなー。
たとえばこれが昭和の日本だとかを舞台にしていたら、僕は「同性愛は当時禁忌だった」という前提をなんとなく理解してただろうし、もっと楽しめたのだろうな、と思います。
また、この監督は今までも「50年代の保守的な価値観の中での女性の苦悩」を描き続けていた方だそうです。映画通の人にはその辺の前知識もあって、より興味深かったのかもしれません。
ある批評家は、「冒頭の地下鉄の通風口のアップは、“当時は覆い隠されていたが、地下ではこんな問題があったんだ”という比喩である!」とまで語っていまして、なんかもうすごい。
センスのいいビジュアル、珠玉の演技
特に批評家達がこぞって絶賛しているのが、ビジュアル面での質の高さと、主役を張った二人の女優の技量でした。
たしかにビジュアル面は、素人目にも秀逸でした。
なんかこう、洒落てるんですよねぇ。1950年代のアメリカをリアルに再現しているのはもちろんのこと、映画全体が薄い黄色のような色調に包まれて、レトロな雰囲気がたまらなく素敵です。全編通してインスタグラムのフィルターかかってるみたいな映画。(※褒めてます)
特に、キャロルとテレーズのファッション、すごくよかったですね。オシャレでした。あまりファッションには興味のない僕も感心してしまう、雰囲気のよさでした。(個人的にはテレーズの服装、レトロだけど、すごくかわいいと思いました)
実はこの映画では、印象的にみせるために、背景から小道具のすみずみまで計算し尽くされたカラーコーディネートまでなされていたそうです。たとえば、テレーズが赤い帽子をかぶるなら、その場面の背景から一切の赤いものを省いておくとか。そこまでしてたのか!
映画を観ている間は「いやー、絵になるなー。レトロで綺麗だなー。」とぽかんと観ていたのですが、あそこまで綺麗に仕上げるには、やはり相応の手間と才能が必要なようです。
また女優は二人とも本当に素晴らしかった。
“わずかな表情や仕草で心情を伝える”という演技の神髄を観ることができました。
少ないセリフのやりとりだけで二人の人物像を描き出し、視線や、手の位置や、煙草を吸う仕草だけでそのときの心情や彼女らの本音を伝える。
たった二時間眺めていただけで彼女たちの性格の全てを把握しているかのような気分にさせられました。
この映画はセンスの高いビジュアルと上質な演技力でとっても丁寧につくられており、まるで芸術品、綺麗な絵画のよう。その点では、紛れもなく一流の映画でした。
でも、退屈だったんです…。
どの批評家もビジュアルや演技を褒めちぎっていた反面、ストーリーに感動したという意見はほとんどなかったように思えます。
むしろ、『恋に落ちて→二人で旅にでて→別れをきりだしたけど→やっぱり寂しい!』というストーリーそのものは特段変わったところもなく、正直なところ、陳腐で退屈と言ってもいいものでした。
この映画の山場は、ようやく一線を越えたあのシーンでしょうか?
しかし、そこに至るまでの道のりは極めて自然で、言ってしまえば容易に予想できてしまうものでした。
だから、全然盛り上がらない。
あるいは、映画冒頭で初めて二人の視線がぶつかった瞬間に、この映画の山場は終わっていたのかもしれません。
テレーズが徐々に積極的になっていく変化とか、キャロルと旦那の関係の清算とか、キャロルの友人の微妙な立ち位置とか、興味深い部分もあったんですけどね…。
あの時代の同性愛者と言う点を考慮したら、彼女たちが普通の恋愛をしているというのは驚異的なのですがね…。
でもこの映画は決して「この後どうなるんだろう…!」とハラハラドキドキするような物語ではありませんでした。
どうも僕が映画に求めているのはそういったハラハラドキドキのようで、いくら上質なビジュアルや演技力を備えていようと、この物語そのものにあまり興味がもてなかったのです。
そういえばこの映画は「映画評論家」が「一般観客」より高い点数をつけていましたが、この辺にも理由がありそうですね。
傾向として、僕のようなライトな観客はあくまで物語を味わい、満足して帰っていくものですし、「評論家」は演技、テクニック、その他映画づくりそのもののクオリティにもついつい注目してしまいがちだと思います。
どうしても好きになれないキャラクター
そして一番大きかったのは、キャラクターの問題でした。
僕はキャロルという人間が、どうしても好きになれなかったのです。
いや、もちろん彼女の気高さや性指向を考えたら、僕のような下賤な男に媚びる必要は全くないわけですが(笑)
彼女について自分の嫁は「すごく綺麗な人」と評しており、僕は「えー。そうかなぁ??」と理解できていなかった点も、なかなか興味深いです。
ただ、性的対象の女性としてでなく、ただ一人の人間としても、彼女がどーも好きになれないのです…。(´・ω・`)
基本的に自分勝手なところとか、口が悪いところとか、謙虚さがなく上から目線なところとか…。
男女どうこうでなく人として、自分の苦手なタイプだな、と思ってしまって。(そういうタイプの主人公でも感情移入できるケースはあるのですが)
個人的には、キャロルの苦悩や、「離婚協議中の恋愛」にいまいち共感できなかったのも微妙な点でした。
たとえばもし中年男性が「嫁には恋愛感情なくて離婚協議中で。でも子供の親権はほしい。」と言いながら、若い女の子と二人で温泉旅行いってたら、なんか不快感抱きません?(もちろん、キャロルは積極的に以前の関係を清算しようと努力しており、旦那が渋っていたせいなのですが)
あと、キャロルがテレーズに送った手紙も、「なぜ別れたいか、今後どうしたいか」がいまいち見えてこないため、なんだかいらいらしました。
もっと具体的に書いてよ!せめて相手にちゃんと説明しないと!そういうとこが自分勝手なんだよ!!
テレーズはなぜかキャロルにベタボレなわけですが、以上の理由から、僕にはその心境がどーしても全く理解できなかったのです。恋に理由はないとは言え、さすがにこれでは応援する気持ちになれません。
だから、どちらの登場人物にも感情移入できないまま、物語が終わってしまったんですよね…。
まとめ
洗練された二人の演技、センスのよい映像美。たぶん、すべてが素晴らしく上質な映画ではありました。
でも、僕が映画に求めるものは物語重視だからか、キャロルに好感が持てなかったからか、どうにもこの映画を好きになれませんでした。
ただ、僕にもっと当時の女性の生きづらさや同性愛への偏見についての知識があれば、あるいは映画に対する目がもっと肥えていたら、もう少し楽しめたのかなとも思います。
もう何年か映画を観続けた後なら、今度は楽しめるのでしょうか…?
今のところ、また観たいとは思っていないのですが。
コメント
ただの女性軽視&女性差別の記事だな
女性が中心の作品はつまらないっていいたいんだろ
おかしいのは僕だけ?とか
そうだよ
その通りだろ
お前が見る目ないだけだろ
レズでもないお前が知ったふうな顔してクソ記事書くな
今すぐ消せ女性差別のクソ男が
見る目が無くても、レズでもなくても、少数意見でも、もちろんクソ男でも、意見を表明する権利はあるんだぜ
こういう感想を言う人もいるんだろうなーとは思いますが
衣装、風景、全て美しい
ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラの演技がとにかく素晴らしい
何度でも、何年経っても観れる名作!だと思います
サウンドトラックも素晴らしい!です
コメントありがとうございます。
素晴らしい点は確かに素晴らしい!と思います。
僕個人の好みは置いておき、近年稀にみる上質な映画でした。
確かにキャロルは我が儘、放漫、一人でいられない上に、浮気はするけど親権は欲しい。言ってることとやってることがちぐはぐですね。そう、どれほど年齢を重ねても彼女は自分のことがまったく分かっていません。とても、人間らしくはないですか?そして、その中でも、やはりテリーズと共に居たい、それだけは、裏切れない。それほどまでの人に出会ってしまったと言えば、それはある意味とても美談ですね。
逆にテリーズは、何も決めれない女性で、さらに若いが故と今の生活に不満がある為に、大人の女性(テリーズにはキャロルがとても格好いい大人の女性に見えている)に惹かれるのでしょうが、彼女と別れて最初は寂しがりますが、タイムズで働き、彼女と離れたおかげで、段々と穏やかな生活になっていきます。
そして、ラスト、山場はないと言っていましたが、山場はやはり二人がもう一度、出会うあの会食の場面でしょう。
キャロルから解放されたテリーズは、もう彼女なしでも生きていけるようになっています。そのためテリーズは、一度キャロルを断ります。
キャロルをあぁ、そういうこと。と認めながらそれでも愛していると告げ、身を引きます。キャロルもまた親権を夫に渡すことを認める場面で、彼女なりに弱さを(車で旅をして問題を先送りにするような弱さ)をきちんと向き合い、克服し、お互いに受け入れて生きてこうとします。同性愛に寛容な時代でない為、それが最善であると二人とも理解してのことでしょう。
しかし、最後にテリーズは、キャロルの前に現れますね。テリーズにとって、キャロルと過ごしたあの旅やもう一度会って愛してると告げられた。ただそれだけで、同性愛に窮屈な時代でも、浮気女だと思われても、相手に子供がいたとにても、それでも、もう一度と願ったのでしょう。愛は大衆的に広いものではなく、深いものなのだと私は、この映画を見て思いましたし、それを自分がするかと言えばそうではないと思います。誰もがキャロルやテリーズのようには生きれません。
キャロルが好きになれないのもよくわかります。
逆に私は、彼女の明るさや、相手へのサプライズや、テリーズへの愛情を嫌いではなく。あの作品の中で最も人らしいと思いました。
そして、ここまで長々とコメント欄に感想を書かせて頂いたのはGoogleの検索でキャロルと検索しますと、この記事の正直つまらなかった、というのが出てきてしまうのが、少し残念な気持ちになったからです。人の感想は人それぞれ、よく理解しております。ただ、それだけで終わらせるには惜しい作品ではないですか?
トップの言葉には、効果が出ます。内容を読まない人が、あーキャロルってつまらないのね。で終わってしまうかもしれません。貴方はこの作品における映像、時代背景、雰囲気をとても評価なさっています。それをもう少しだけトップに出して頂けると幸いです。
長々と失礼しました。
コメントありがとうございます。
二人の心情に対する深い考察、拝見させていただきました。
美術的な面だけでなく、心情の描写も本当に素晴らしい映画でしたね。
記事トップにあえてネガティブな言葉を載せたのは、私なりの理由あってのことなので変えるつもりはありませんが、お心遣いに感謝します。
はじめまして。私はこの映画のことを知りません。ただ、なるほどなあ、と共感しながら読みました。
キャロルの人格はさておき、物語的盛り上がりと演技や映像の質。全部揃ったら素晴らしい。でも現実はそんなに劇的ではなく地味な日常が続くわけで。へたに劇的にすると、嘘っぽくなる。演技の良さを活かしながら物語の面白さを盛り上げるには、さあ映画を作る者はどうすべきか?といったところでしょうか。
私が観たらどう感じるか体験したくなりました。私はロードオブウォーで検索してこのサイトにたどり着きました。
yuuさんの言葉に対応する事を述べます。否定的見出しは主人公二人の写真と並んでいると私にとっては返って興味をそそる結果となりました。
たくさんの映画をご覧になっているのですね。その上での辛口批評。
参考にさせていただきます。
それと「カランコエの花」「宝物の抱きかた」2つの日本映画をご存知でしょうか?
前者は今田美桜主演。LGBTがテーマ。後者は一般的には無名の榎本桜(男性)主演。
後者はLGBTは関係ないですが、どちらも演技は素晴らしいと思います。それは自信をもって言えます。しかし劇的展開はほぼないですし、登場人物の言動に疑問もわくところもあると思います。例えば後者の主人公は他人の子供を勝手に連れさります。誘拐犯扱いの危険を犯して。
すでにご存知かもしれませんが、ご覧になって見てはいかがでしょうか?
短編映画です。感想を読ませていただけたらありがたいです。
劇的な展開がないのに薦めるのはいかがなものか?ですがキャロルと比べてどうか確認するのも面白い……かもしれません。
はじめまして。
昨日『キャロル』を鑑賞した者です。
私はふだん、登場人物に感情移入するかどうかに力点を置いて鑑賞することはあまりないのですが、そのことを差し置いてもこの映画は物語としてどうなんだろ…?と感じてしまいました。
とくに、半ばモブキャラと化している周囲の男性の描き方が、ふたりの美しさを際立たせるための噛ませ犬のようになっていたことが気になりました。
有り体に言えば、世の男がダメだから消去法で結ばれた…という風に見えてしまいました。
hibinoさんがご指摘されているようなキャロルへの違和感も非常にうなずけますし、大変参考になりました。
時代背景的に仕方ないとはいえ、壁を乗り越えたというよりは、壁から逃走したという印象がありました。
全体的に、いわゆる「カタルシス」の弱さという点では非常に玄人向きの作品かなと思いました。
私にはまだまだ早かったかもしれないです>_<