犯行メンバーの実際の素顔
ブライアン・リーダー
本人画像。若干似てますね…
76歳(!)と犯行グループで最年長であり、犯行現場に向かうためバスに乗るときには敬老パスを使っていたとのこと。映画では別の場面でですが、パスをかざすシーンがあったりします。
好感を抱く人柄で、一般的な犯罪者のように傲慢だったり攻撃的だったりすることはなく、ある警察関係者は「最後の紳士泥棒」とまで表現しています。
一方で、イギリスで悪名高い犯罪者ケネス・ノイエのかつてのパートナーでもあり、2600万ポンドの金塊が盗まれたブリンクスマット事件で共に逮捕されています。(そのときは8年間の投獄)
さらにその事件の際、ケネス・ノイエを監視していたおとり捜査官が何者かにナイフで11回刺されて殺害された夜、ブライアンがケネス・ノイエの家に立ち寄っていることが確認されている。
殺害については証拠不十分で無罪。
劇中でも「警察官の殺害に関与している可能性がある」と言及されていました
テリー・パーキンス
襲撃の週末が、ちょうど67歳の誕生日でした。
彼は開けられた穴を通って金庫室に入ることはなく、盗品を手渡されるまで外にいたと考えられています。現実でも、初日の金庫破りを失敗したことに腹を立て、ブライアン・リーダーに不満を隠さず、2日目以降に中心的ポジションに収まりました。(この辺は映画通り)
映画の中で自慢していたとおり、1985 年に東ロンドンで発生した有名な Security Express 強盗にも関与しています。
金庫室から600万ポンドを盗んだものの逮捕され、 22 年間も投獄されました。
現実では事件のわずか一ヶ月後、パブでブライアンに対し、どうやって金庫に侵入していたのかをジェスチャーを交えて実演し、それを覆面捜査官にばっちり撮影されちゃうという脇の甘さ。
今回の事件でも収監されますが、幸か不幸か、判決の1週間後に突然死します。
ダニエル ‘ダニー’・ジョーンズ
当時58 歳で、メンバーの中では若手(!)。
強盗、盗品の取り扱いなどで過去に何度も有罪判決を受けています。
金庫室に開けた小さな穴を実際に通り抜け、貸金庫を開けて回った2人のうちの1人。
実際の金庫の穴
現金と宝石を墓石の下に隠したことを自供しており、映画の描写にも生かされています。
映画ではテリーに同調する、比較的クセの少ない人物として描かれていますが、実際には妄想の世界で暮らすことの多い風変わりな人物として知られていました。
- まるで人間であるかのように彼の白髪のテリア犬、ロケットに話しかける
- 軍隊に夢中になっていて、寝室の床に寝袋を入れて寝て、ボトルに排尿することがよくあった
- フェズ(トルコ帽)をかぶり、母親のガウンを着て眠っていた
- 襲撃中にも縞模様のズボン、ハイビズ チョッキ、赤いトレーナー、ネイビーの野球帽という風変わりな服装をしていた。
等の変わったエピソードを持っています。
映画化にあたり、この辺を強調すると差別的表現になると判断され、まるごと削られた可能性がありますね。
ジョン ‘ケニー’ コリンズ
75 歳。1961 年以来、強盗、盗品の取り扱い、詐欺などの犯罪で長い間有罪判決を受けています。
事件では見張りの役割を果たしました。ビリーの妹と一緒に暮らしていた縁で、ビリーを仲間に引き込みます。警察が彼の乗っていた車のナンバー(白のメルセデス)を特定したところから、身元を特定されていったのも史実通り。
なお、映画とは異なり、実際には「ウォンバットのように太い」と共犯者に呼ばれるような体型だったそうです。だいぶ映画のイメージと違いますね。
近所の人たちは彼が事件に関与していたことにショックを受け、犬の散歩が大好きな「いいオタク」だったと表現しました。
カール・ウッド
58歳。彼は約 20,000 ポンドの借金を抱えており、警察官の汚職に協力した件での逮捕歴がありました。
初期の計画メンバーではないものの、30年来の友人であるダニーから“信頼できる仲間”として、強盗を成功させるための追加要員として採用されました。
初日の侵入には参加したものの、ブライアント一緒にその後は離脱。
なお、エンディングシーンで発言していたとおり20 代前半にクローン病と診断されていたりします。
クローン病は炎症性腸疾患であり、しばしば寝たきりで苦しんでいたそうです
ちなみに園芸好きで、よく地元の園芸センターでサンドイッチとコーヒーを頼んでいたそうです。
映画の中でもそれをモチーフにしたのか、庭いじりをしている描写が多めです。
ウィリアム ‘ビリー’ リンカーン
この人も、だいぶ映画と見た目が違いますね…
60 歳。市場での売買を生業としており、通称は「ビリー・ザ・フィッシュ」。魚市場で、魚を購入し、友人や家族に販売していたことで有名な人物でした。
ビリーの妹がジョン ‘ケニー’ コリンズと一緒に暮らしており、ケニーによって略奪品を管理するメンバーとして採用されます。両股関節置換術と膀胱の問題により、建物に入るチームからは外されました。
彼もまた、 1975 年から 2013年にかけて、強盗未遂、強盗、窃盗未遂で何度も有罪判決を受けています。2013年はバッテリー泥棒だとか。
既婚、2 児の父。
なお、彼はウェストミンスターにあるジョージアン ポルシェスター スパでリラックスすることを好んでおり、映画の中でも入浴シーンとして再現されています。「お爺ちゃん二人の入浴シーンとか、誰が得するんだよ!」とか思ってたけど、ちゃんと事情があったんですねw
ヒュー・ドイル
逮捕されたもう1人。ジョン ‘ケニー’ コリンズの信頼できる友人。
盗難そのものには関わっていないものの、盗品の引き渡しの交換ポイントとして彼のワークショップを提供したため共犯とされました。
48歳と若く、この映画の売りの平均年齢を下げちゃうため、映画ではほぼ言及なし。かわいそう。
実話ベースの映画は、実際の人物像を調べていくうちに、小さな描写の裏にあるモチーフなどが明らかになっていくのが楽しいですね。
判決
犯行に関わった7名には、それぞれ懲役刑が科されました。
また、ジョン “ケニー” コリンズ、ダニエル ジョーンズ、テリー パーキンス、ブライアン リーダーは合計 2,750 万ポンドの支払い命令を遂行しなかったことで、さらに 7 年程度の懲役が加算されました。
- ブライアン 懲役6 年 3 か月 → 懲役13年3ヶ月
- ケニー 懲役7年 → 懲役14
- ダニー 懲役7年 → 懲役14年
- テリー 懲役7 年 → 懲役14年
- ビリー 懲役7年
- カール・ウッド 懲役6年
- ヒュー・ドイル 懲役21 か月、2 年間の停職処分
こうやって並べてみると、初日で離脱したブライアンとカールの量刑だけちょっぴり軽くなっていますね。
犯行の舞台
ハットンガーデン
ロンドンのジュエリー地区として有名で、英国のダイヤモンド取引の中心地でもあります。ジュエリー業界には約300の企業、55を超えるショップがあり、英国最大のジュエリー小売業者のクラスターとなっています。
なお、ハットンガーデンの名前は、1570 年代にエリザベス女王の首相であり寵臣であったクリストファー ハットン卿の敷地の一部(庭)に作られた高級住宅街であったことにちなんでいるそうです。
犯行の手口
こちらは映画において史実がほとんど再現されています!
エレベーターシャフトから敷地内に侵入した点も、
シャッターをこじ開けたのも、
その後ヒルティDD350 工業用電動ドリル(amazonでも買えます笑)を使って、厚さ50 cmの金庫室の壁に穴を開けた点も、警察の発表そのままです。
警察発表の被害額は1400万ポンドとされていますが、40名の貸金庫利用者のうち1名は名乗り出ず、「別の犯罪者が不正な金を隠していたのではないか」と噂されています。
また、他の貸金庫利用者の中にも、不正な資産の存在を黙っている可能性もあり、本当の被害額はもっと多くなると予想されています。
ちょっと面白いエピソードもみつけました。警察の発表では「開けられたどの貸金庫に入っていたかわからないものの、現場には“何かを告白する誰か”のカセットテープが残されていた」とのことです。
一体誰が、何を告白したのでしょうか…。好奇心を刺激されるエピソードですね!
さて、調べてみてわかったのはこんな所です。
個人的に好きなのは、ラストの逮捕・収監され、スーツに着替えて法廷?に向かうシーンです。
今まであんなに裏切り合い、憎みあってたはずの6人が仲良くおしゃべりをしている様子になんだか和んでしまいました。
お互いに何も持っていない状態になると、もうこれ以上奪い合う必要が無く、良い関係を築けるということかもしれません。
もともとが犯罪者気質で平気で人を裏切れる6人だからこそなのか、それとも人間って多かれ少なかれ、そういう所があるのか…
「富」こそが争いの源泉というか、何も奪うような資産が無い狩猟・放浪生活をする少数民族などでは個人間の争いはほとんどないけれど、穀物の貯蔵という形で『富』を蓄え出すと、途端に個人間での競争や争いが生まれる…なんて話も聞きます。
巨万の富を得た時よりも、逮捕されてからの方が仲良く幸せそうに見えるところに、この映画の肝があるような気がします。
皮肉好きなイギリスっぽい描き方で面白いですね。