子育てを世界に委ねる/ボビー・フィッシャーを探してネタバレ感想/原題の意味

映画の主人公はチェスの才能あふれる少年です。
しかし主人公を取り巻く3人の大人(父・母・指導者)、彼らの子育てに取り組む心の葛藤こそがこの映画の核になっています。

悩める父

一番感情移入できたのがお父さんです。僕自身が父親なのもありますし、我が子に対し全く同じ失敗をしてしまった苦い経験もあるからです。

映画の中盤、父親は息子の成功を願うあまり、一回戦で敗退した少年を叱責したり、「失敗に恐怖を抱いても打席にたつべきだ」とがむしゃらに勝利を求める姿勢になってしまいました。

ああ、すごくよくわかります…。
子供のためを思いながらも、いつの間にか子供にストレスを与えながら強制してしまう…。

僕も同じような経験があります、運動が得意でない息子がボール投げや、逆上がり、ローラーブレードの練習を投げ出しそうになったとき、「出来るようにさせてあげたい!!」と思うあまり、「もっとがんばれ!!」と圧をかけてしまったり、時には「もう一回やってみなさい」と強制してしまったのです。

もちろんその場では出来なかったことを克服し、出来るようにさせて褒めているのですが、どこか息子の中で「鉄棒はやだな」「やりたくないな」という意識が芽生えているような気がするんですよね。
成功体験をつけてあげるはずが、逆効果になってるんです。

息子がチェスで勝ち進むことが父親自身の目標となってしまったように、僕自身も子供の成長を自分の目標にしてしまっている傾向があります…。でも、本当はそれじゃダメなんですよね…。

映画の父親は、安くない金額を払って元チャンピオンに個人指導を乞い、休日のたびに大会につきそい、理解のない学校からは転校させるなど、金銭的にも精神的にも援助を惜しみませんでした。

それでも、最終的には息子の好きにさせたのです。

成長の機会は与えつつ、強制させることなく子供の自主性に委ねる。
自分もそうありたいものです。

支える母

母親の存在も、もちろん忘れてはいけません。
父親が「息子のために」と言いながら暴走しだした時には喧嘩も覚悟でブレーキをかけ、父親の自信が揺らいだときには側に寄り添って支える、素晴らしい奥さんでした。

ただ映画では、父親の未熟差ばかりが強調されており、もう少しお互いに支えるシーンが観たかったな~、とも思いました。まあ、二時間の映画でそこまで盛り込むのは難しかったのでしょう。

我が家でも、僕が精神的に未熟なこともあり、ずいぶん奥さんに支えられています。時には行き過ぎを咎められ、疲れたら癒してくれる、素晴らしいパートナーです。

ただ同時に、奥さんが子供に対し感情的になったとき等に自分が間に入ったりすることもあります。(我が家での数少ない育児の指針のひとつは「二人同時に叱らない」です)

育児の葛藤を一人で背負うのはとても大変です。「どちらかがブレーキ役」という役割分担ではなく、お互いに支え、補いあいたいものです。

もうひとつ、母親の描き方で好感が持てたのは、周りの世界との距離間の巧みさです。

どれだけ権威のある指導者だろうと子供のためなら断固として遮断し、一方でどんな大人に対してもそれぞれに敬意を払うことを説き、少年に広い視野を与えていました。

彼女は、子供を成長に導くのは両親だけではないと理解していたのでしょう。
両親は万能の教師ではありません。子供は周りの世界、両親以外の大人とつきあうことで、どんどん世界を広げていきます。

子供の成長を思い切って世界にゆだね、一方でいざという時は躊躇なく守る。
父親が指導者を自ら用意し、「自分の力で子供を正しく成長させるぞ!」と肩に力が入っていたのとは対照的です。

ただこれ、口で言うのは簡単ですが、実践するのはとても難しいんですよね…(苦笑)

特に、あれくらいの年齢の子供を、「世界にゆだねる」という部分が難しい。
なにしろ自分以外の人間はコントロールなんか出来ないんです。子供にベストな学びを与えてくれるとは限りませんし、それどころか悪影響かもしれません。
それだったら、自分でいい影響を用意したい…となっちゃいますよね。(それが正解なのかもしれませんが…)

でも、繰り返しますが、両親は万能ではありません。
小さな子供と接していると、大人である自分たちが万能で人格者のような気がしてしまいますが、いざ社会にでれば決してオール10の優等生ではないのです。

ではどうすればいいのか?
未熟な自分だけで子供を導くのではなく、ひとりひとりの他人に敬意を払い、それぞれに学び、導いてもらうべきなんです。
そうすれば、両親がオール10にならなくても、社会そのものが“オール10の師”と呼べるのかもしれません。

もちろん、時には悪影響もあるでしょう(映画の元チャンピオン先生の暴走のように)。
そんなときは全力で子供を守るし、それでも勇気を持って、子供をまた世界に委ねる。
いやー、この映画のお母さんは本当にすごいですよね。胆力に感服しました…。

子育てって、難しく面白いです。
チェスに「こうすれば勝てる」という最高の打ち方がないように、子育てもまた、試行錯誤です。

この映画の原題は“Innocent moves”です。
moveはチェスの駒を動かすときの単語ですから、意訳すると「無垢な一手」にでもなるでしょうか。

原題が打ち手である幼い少年に焦点を当てているのに対し、邦題「ボビー・フィッシャーを探して」では彼を取り巻く大人たちこそが真の主人公であることを示唆しています。

だから、個人的には邦題の方がちょっと好きです。

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