映画の主人公に大金持ちはあまりいません。
なぜなら一般庶民にとって、大金持ちってのはそれだけで虫が好かないからです。(僕もむかつく!)
例外的に大金持ちが映画の主人公になれるのは、バットマンやアイアンマンのような『大富豪が正義のために私財を投じて戦う!』というケース。
もうひとつは、実際はほとんどこちらなのだけど、『性格の悪い金持ちが、二時間の映画の中で優しさに目覚めていく』というケースです。
最初、『ブルージャスミン』は、後者の映画に近いのかと思いました。
なにせ主人公は元・大富豪の奥様であると同時に、とにかく感じの悪い嫌われ者だからです。
それがまさか、こんな結末を用意してるとは…!
あらすじ
主人公は、大富豪の男性と熱いロマンスを経て、見事玉の輿に乗れた成金セレブだった。しかし、あるきっかけから没落し、破産し、全てを失ってしまった。豪奢な生活からどん底まで叩き落された上、精神まで病んでしまった主人公は妹の元に身を寄せる。
予告編
87点
いやー、冒頭から凄い勢いで落ちぶれてます。
現状を受け入れられない彼女は、妹や彼の貧しさを馬鹿にして暴言を吐き捨てます。ついでに精神安定剤とアルコールをがぶがぶ飲み、やばい目つきで独り言をぶつぶつ。まったく見事な壊れっぷりです。でも、なにせとにかく性格の悪い奴であるから自業自得。観ていて胸がすく思いですらあります。ザマミロ( ゚д゚ )
(余談だがケイト・ブランシェットが演じる主人公の、優雅なセレブっぷりと没落後ヤバさ加減の振れ幅は一見の価値があります!女優ってすごい。アカデミー賞主演女優賞獲ったらしいが、納得です。)
シングルマザーで貧しく暮らしつつも、恋人と愛を育んでいた妹は彼女とは対称的な存在です。
主人公は妹の彼(低所得DQN)と喧嘩を繰り返し、妹にかばわれたり、愛想を付かされたり。そうしたやりとりを経て、徐々に彼女は人間の優しさに目覚めていくそんな話なのだろう…と思ったら、別にそんなことはなかった。
これは『性格の悪い金持ちが、二時間の映画の中で優しさに目覚めていく』映画ではありませんでした。
なんと彼女は徹頭徹尾、性格が悪いままなのです…!
貧しい生活を受け入れられず、セレブへの復帰を目指す彼女は、ある紳士と親しくなる。彼こそが自分が社交界に返り咲くためのパートナーに違いない。身の上を偽るために虚言を重ね(ホント性格悪いな)、社交界で培ったスキルを駆使し、見事彼のハートを掴んでいくのだが…。
以下ネタバレ含む感想です
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いや~、僕この映画好きだわ!!ウッディーアレン凄いな!
人物描写のおもしろみって言うのかな?
例えば、対称的とは言ったものの、妹とその彼氏も決して「優しい心のいい人!」というわけではないのがまた面白いです。
彼氏は稼ぎも少なく、短気で粗暴なところがあります。電話とか投げてた。ついつい主人公に嫌味を言ってしまったり、彼女を疎ましく思っていることを隠せてません。妹のことをとっても愛しているし、いい奴だとは思うんだけどさ。(あと友達がすげえ空気読めない。)
そして妹も、その彼氏を愛しているように見えるが、どうも心から満足しているわけではないらしい。経済的にも、性格的にも、もっといい相手がいたらな~と思っていて、あっさり浮気して、そしてその後しれっとヨリを戻してる。酷いぜ(´・ω・`)
どうも「性格の悪い金持ち」と「貧しくも心優しい二人」というシンプルな対比にするつもりはないらしいです。
この一筋縄ではいかない感じ、なかなか味わい深くてニヤリとさせられます
さて元セレブの主人公、こいつは本っ当に最悪で、とても魅力的な人物とは思えなかったんです。
しかしまぁ、同情なのか人情なのか、少しかわいそうな気もしてて。
映画を観終わって「なんか憎めないのはなんでだろうなぁ(笑)」といったときに、妻がポツリと呟いたんです。
「たぶんさ、ジャスミンは本当に死んだ旦那のことが好きだったんだよ…」
その瞬間、正直自分でもよくわかっていなかった戸惑いが、衝撃と共に理解できました。
そうだったのだ。なぜ彼女をただただ『イヤな奴』と片付けられなかったのか。それは彼女の内面の奥深くに隠された“純真さ”だったのです。
純真さ!!
まったくもって彼女に似合わない単語のようだけど、あらためて電話のシーンを思うとはっきりと気づかされます。
なぜ彼女が壊れてしまったのか?それは彼に裏切られた悲しみから発作的にやってしまった復讐で、彼を殺してしまったから。
なぜ彼女があの日々に戻ることにこだわるのか?それは彼といた日々が、本当に幸せだったから。
セレブからの没落、カムバックへの奮闘がコミカルで気づかなかったが、それこそが周到なミスリードでした。
彼女の内面の奥深くには、もっと愛すべきものがあったのです…。
そしておそらく、彼女自身も、それに気づいていなかったのです。
成金の醜態をあざ笑い、溜飲を下げるようなコメディーのはずが、おぼろげなヒントに気づいた瞬間にその姿をすっかり変えてしまいました。
ベテラン映画監督ウッディ=アレンの技量にすっかりやられてしまいました。見事です。
そういえば、同じウッディ・アレン監督の『アニーホール』という映画もよかったなぁ。あの映画は2人の“変人”が出会い、恋をして、そしてすれ違ってしまう一部始終を描いたほんのり切ない物語だった。おかしな男女の裏に隠された「せつなさ」と「愛しさ」が印象的で、ごく普通のラブロマンスよりもずっと心に残っています。
この『ブルージャスミン』もまた「せつなさ」と「愛しさ」が心に残る映画でした。
おかしな人間だからこそ、ピュアななにかが引き立つのもあるのでしょうか。あるいはウッディ・アレン監督の、人間の中に隠された愛すべきなにかを描きだすのに稀有な才能かもしれません。
彼の作品はまだまだ観ていないものが沢山あります。楽しみになってきました。
それにしても、まったく人間ってのは面白いなぁ。
いい映画でした。
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